何か起きそうで結局なにも起きなかった。
一波乱の予感は完全に外れた。
なんていうかあれだ。
降りそうだった雨が結局なんだかんだで降らなかったみたいな、そんな感じ。


いや、だってさ、あんな怖い顔で迎えにこられたら怒ってると思うじゃん。つーか絶対怒ってたじゃん?
なんで怒ってたじゃん?理由はよくわからなかったけど、
ちゃんと本人に「かっこよかった」と伝えられただけかなり進歩したんじゃないかと思う。
あたし的には。





そう、すべてが上手くいってる、あたし的には。











日はもうすっかり暮れていた。
見慣れた商店街がオレンジ色に染まる。
主婦達はいそいそと買い物をして近所の小学生達は昔懐かしいガチャポンやゲームに勤しんでいた。
そんな中を二人でゆっくり歩く。
「今日は二人のり、す、する?」と思い切って切り出したのに「今日は歩く」とあっさり流された。
はじめはちょっとむっとしたけど、うるさすぎないこの場所を二人でゆっくり歩くのも悪くないかもしれない。
ふと横に目をやればついこの間まで幼馴染だった恋人のりりしい横顔があたしの鼓動を早める。



「・・・・・・・・・・。」

「・・・・んだよ。」

「ぇえ!?いや、別に?」

「・・・あっそ。」

「・・・・フ〜ンフフーフフォ〜ヘ〜しゃかーりーきコロンブース〜」

「いや、それ女子高生の口ずさむ歌じゃねーから。一昔前すぎるから。」

「少年隊なめんな!!!」

「お前がなめてんだろ。それ光GENJIだから。少年隊は東だから。」



呆れながら半笑いであたしの肩をびしっと叩く。
あたしはこのやり取りがなんだか嬉しくて自然と笑みがこぼれた。




「ねーねー」

「あー?」

「なんで商店街通るの?なんか買い物?」

「いや、別に?」

「・・・遠回りじゃん。」

「だな。」


しらっとした顔で隆也が言う。


「・・・・・・・いやいや、なんで?」


なんでわざわざ遠回り?
隆也はさっきまで運動してて疲れきってるはず。
それは見てた(ちゃんと見てなかったけど)あたしにはわかる。
こうやって歩いてるのもしんどいんじゃないの?そう思ってしまうぐらいに彼は疲れている。
顔には出さないようにしてるけどなんとなく足取りが重そうだし肩も心なしか下がっているように見える。
それなのに、
自転車には乗らない。
わざわざ遠回りする。
あたしには考えられなかった。


ふわりとスカートが風にゆれる。
髪が流れる。
隆也の真っ黒な瞳があたしの呼吸を止めるかのようにじっと見つめる。


カラカラと車輪の音は止まらない。





「こっちのほうが長い時間二人でいられる。」





独り言のようにつぶやかれた言葉は風にのってしっかりとあたしの耳まで届いてきた。

ざっくざっくと引きずるような隆也のあし音。
カラカラと時間が流れていることを証明する車輪の音。
ぼんやり聞こえてくる商店街の音楽。
あたしは俯いた。
だってだってだって。


この子こんなこと言う子だった?
ちょ・・・・隆也ちゃーーーーーん!!!!
何?なんなの?あたしはびっくりしたよ。
あんたがこんなことを、あたしに言うなんて思ってなかったよ。
いつから?いつからそんなにかっこよくなちゃったの?
いつからこんな風にあたしをドキドキさせるようになったの?
そんでもっていつからあたしはこんなに隆也の言葉にドキドキするようになったの?
別にそんなことどうでもいいけど。


ヤバイ。

嬉しいかもしれない・・・・。


疲れていながらもこんな風に想ってくれてるなんて。
しかもあのぶっきらぼうで「めんどくせー」みたいな隆也が。
自分の出来る限りであたしを優先してくれてる。

どうしよう。

顔が熱い。
胸が信じられない音でなってる。
脈が速くて目の奥がツンとする。



「・・・?」

「なんでしょ?」

「・・・お前こそなんだよ。その顔は。」

「いやぁ・・・なんかかわいいなぁって思って」

「はぁ!?」

「一緒にいたいとか、そーゆーこと言うんだね。」

「るせーな・・・・・・つーか何?お前は違うわけ?」

「ぇえ!?あたし?」



「お前しかいねーだろ」と呆れた様子で言う。
隆也の悪戯な笑みがあたしの顔を覗き込むようにしてみてくる。
あたしは思わず顔をそらす。
口が上手く動かなくて、脈が早い。
「なんか言えよ」とせかされるけど今は恥ずかしくて声も出ない。
なんでだろ、いつからこんな乙女になったの?あたし!
全部隆也があたしの世界を変えたんだ。あたし自信を変えたんだ。
世界は何も変わってなかった。
昔おなじみの商店街だって、いつも見てる隆也の小汚い自転車だって、あたしの学校用の皮の鞄も汚れた靴も。
何もかわってないはずなのに。
あたしどうしたんだ!?
こんなのあたしらしくない気がして、
結局返事は出来なかった。

でもその代わりに、

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・っ。」



ピクンと隆也の肩が動く。
ちょっとだけ視線をずらした後に、「素直じゃねーな」と言って喉を鳴らすように笑った。



「うるさい。」
口をとがらせて眉間に軽くシワを寄せる。
多分真っ赤な顔してると思う。


今は隆也と目を合わせる余裕は微塵もないけど、





あたしの右手は隆也の服のすそをぎゅっと掴んでいる。






これがあたしの精一杯。

疲れてるのもわかってる。
今すぐお風呂入ってベットにぶっ倒れたいのもわかってる。

でも、ごめん。

もっとゆっくり歩きたい。
寄り道していきたい。



一緒にいたい。


わがまま言ってごめんね。


そう物語るかのように。
あたしの手はギュッと隆也の服のすそを掴む。










カラカラと静かに音を立てて自転車は進む。
ゆっくりゆっくり。

このまま二人も


ゆっくりゆっくり



歩んでいけるものだと思っていた。










それでも時間はくる。
進めばいつかは目的地にたどり着くもの。


あっという間に家の前まで来ていた。









「・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・それじゃーね。」

「おう。」

「今日はお疲れ。ゆっくりやすめよ。」

「いわれなくても。」

「っ!いちいちムカつく・・・!あばよ!小僧!!」


さっきまでの甘い雰囲気はいずこへ?と首を傾げたくなるような態度に軽くしたうちが出た。
しらっとした隆也の顔を見てからすぐにあたしは自分の家の方へと向き直る。






。」


力強く掴まれた腕に返事をする間もなく無理やり振り向かされた。







風も、


気温も



よくわからなかった。




でもはっきりと感じた唇に触れた感覚

温度。



隆也の顔がゆっくりと離されて開かれたまっすぐな目にあたしは視線をそらすことすら出来なかった。





「た、かや!ここ外だよ!!バカ!!」

「わりぃ・・・・つい」

「つい、て!!は、はずか、しぃ・・・・」

「俺、が思ってるほど優しくねーかもしんねー・・・」

「は?隆也を優しいなんて思ったことは一度もないけど?」

「そーゆー意味じゃねーよ。」

「じゃーどーゆー意味なんですかー」

「・・・したい。」

「・・・・。」





困ったように顔をそむける隆也。




したい?


何を?



きかなくったってわかる。


その言葉の意味。



ふりだしそうだった雨は



あたしの予想をはるかに超えた大粒の雨粒が



激しく大地を叩くようにふりだしたのかもしれない。

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はい。なんでしょね。これ。どうなんの?っていうか展開はやくない?なんなの?
阿部きもくない?私もどうにもできない感じです。でも裏万が一いっても未成年の方は
読まなくても大丈夫なようにしておくのであしからずです。
ここまでよんで下さって本当にありがとうございました!