「阿部も一緒に棒倒しやる!?」





俺がアンダーシャツを脱ぎきる前に田島がひょっこりと部室のドアの隙間から顔を出して言った。


「・・・・は?」





部室内にいまだかつてない奇妙な空気が流れる。


「え、俺?」




素っ頓狂な俺の顔に田島が頬を膨らました。


「お前以外阿部はいねぇーだろ!!やる?」

「まぁ・・・そうだけど・・・いや・・・いい・・・。」


すると田島は「あっそ」と言って部室から出て行った。


いやいやいや。
なんで俺?
部活終わって棒倒しっていうのも意味わかんねぇーけどそれは田島だからまぁいいとして。
俺を誘うか普通?まだ三橋とか栄口とかあったろ。
部室内には俺、花井、栄口、三橋、沖が残っていた。このメンツでわざわざ俺だけを、しかも棒倒しに誘うなんて。



なんでわざわざ俺を誘ったんだ・・・?




「・・・・まさか・・・」


俺ははっとしてシャツのボタンをとめ終える前にそのまま部室のドアをそっと開けた。



「えーと、えーと・・・あっ!!小学校の時隆也のマジンガーロボにヒゲ書いて片腕引っこ抜いてそれでもしらきってごめんなさいっと!!!」

「ぉあーー!!!ちょ、いくなー!!もう棒倒れそうじゃん!んーとじゃー俺は・・・」

「なかなか勝負かけてくるなーさん!」

「水谷君だってがっぽりいったじゃーん!」

「・・・・さん。」

「どしたの?泉く・・・」



そこには水谷、田島、泉、そしてここに本来いるはずのないが土を盛った真ん中に木の枝を指したものを囲んで座っていた。


泉を筆頭にみんな俺を見ている。

のしまったという顔に俺は無言で小さく手招きをした。
は怖ず怖ずとそばに来きてビクリと肩を強張らせる。

それは俺がコイツが逃げないようにと手首をしっかりと掴んだから。



「な、なんでしょう・・・」

「聞きたいことは死ぬほどあんだけどとりあえず一つ。なんでここにいんだお前。」

「家の鍵忘れちゃって・・・今日親、親戚のお通夜でいないし・・・隆也ママがうちの合鍵持ってるからさ!・・・そ、それにたまたま近くまできてたもんだから・・・。」

「なんでメールとか電話とかしねーんだよ」

「だって練習してたら携帯見れないじゃん!それに近くまで来てたんだもん。」

「・・・じゃあもうひとつ。なんであいつらと棒倒ししてんの。」

「田島君がやろーぜって声かけてくれたんだよ!暇だったし・・・」

「ふーん・・・・」

「しかも今までやってきた悪事を振り返って懺悔しながらっていうオリジナルルール付き。」

「・・・・・へぇ。」

「・・・ほら、なんていうかさ、悲しみの弔い合戦みたいな?」

「お前を弔ってやろうか。」

「勘弁してください。」

「・・・・。」

「た、隆也?」

「とりあえず着替え終わるまで待ってろ。」

「イェッサー!!」





にっこりと笑う

俺はとりあえず自分のロッカーの前に戻ってズボンのベルトを外す。

言いたいことは色々あったけど・・・
とりあえずは俺を頼りに来てくれた事が地味に嬉しくて。

よしとしよう。






部室の窓から外灯の光がほんのり見える。
もう日が沈んでからどれくらいたったのだろう。
あいつはいつから外にいたんだろう。
色々気にかかるところはありながらも俺はいそいそと着替えを終えた。






「お待たせ。」

「ん。」

よいしょとが立ち上がりスカートについた砂をはらっていると田島がはっとを見上げる。


「えー!!もう行っちゃうのかよー!」

「しょーがねーだろ田島。」

首に手を当ててため息混じりに泉が言った。

「そーだぞ田島!あんましつこいと阿部が機嫌悪くして明日俺にあたるんだから!!」

なみだ目になりながら水谷が続く。



「えっ!?水谷君に!!?それならあたしもう少しのころうかな・・・!」

「ちょっさん!?事情を知っての残り?仕様?」

「あーもーうるせー!!帰るぞ。」

「んじゃーなー!!!!!!」

「気をつけろー」



意味深な泉の言葉に軽く首をかしげるの手を引いて俺達はグラウンドを出た。



もう人もほとんど通っていない商店街からは廃れっぷりがにじみ出ていて、なんだか古臭いような匂いがする。
でもここも俺達にとっては大切な場所だから。
俺達が育った場所はどこだって思い出の場所になる。
だからいつもここを二人で通るたび思い出話に花が咲いた。



「あーー!!そういえばさ!ここのおもちゃ屋。」

「んー?」

「ここでさ、毎年お年玉二人で半分ずつ出してタコ買って飛ばしたよね!!」

「あー・・・そういえばやったな。」

「懐かしい!!」

「いっつもお前が俺の忠告聞かないで糸切ったり電線に絡めたりしてだめにしてたんだよなー」

「・・・・それはいいじゃん。むしろアクシデントがあったからこそ覚えてるんじゃない?」

「お前のそのすばらしいプラス思考に乾杯。」

「いや、なに?そのすがすがしい顔。腹立つわ。」

「わるーござんしたーーー」と言って顔をくしゃっとさせるは、タコ上げの時の嬉しそうな顔のまま。
笑顔ってなかなか歳をとってもかわらないんだなぁと思った。



「隆也ー。」

「あー?」



いつもどおり自転車はカラカラと音を立てている。
ニケツをしないでこうやって押して帰るのは久しぶりだ。

俺はゆっくりと視線を左のに移す。





「はあたし達はもう、あの時とは違うんだよね。」

「急にどした?」

「恋人・・・ど、どうしなんだよね?」

「まぁ・・・そうだけど。」

「つまりあたしは、あ、阿部隆也のかの、じょ的なあれでいいんだよね?」

「あ?的っていうか・・・まぁ・・・・。」

「幼馴染かつ、彼女、的存在でいいんだよね?」

「だからなんだよ!!あらためて!!」


自分が口に出すのはなんともないのに相手から聞かれると結構照れる。
というか普段こんなこと口にしないから言われてるせいもあるかもしれないけど。

とにかく今、とてつもなく恥かしくてしょうがない俺は照れ隠しに強めに聞いた。
は「別になんとなく。確認だよ!確認!」といったけど、どこか様子がおかしいような気がして、俺は足を止めた。




「た、隆也?どしたの?」

「いや、お前がどーしたんだよ。」

「なに、が?」

「いや、完全に様子おかしいから。どしたんだよ。」

「ぇえ!?わ、わかりますぅーーー!?」

「バレバレだっつーの。」


「い、いや、実は・・・・ですね・・・・うへ、」

「気持ち悪りぃーからさっさと言え。」

「ひどいな!ま、もったいぶるような・・・ことでもないし、まぁもってもての阿部さんならよくあることなんだろうけどね!あ、あたくし・・・本日!!」





はびっとブイサインを俺に突き出す。


「本日隣のクラスの男子から告白されてしまいました!!!」









は?







告白された?







「・・・・ギャグだろ?」

「いや、あたしもはじめはそう思って罰ゲームかなんかかと思って何度も確認したよ。」

「・・・人?」

「え、それ以外いないよね?っていうか隣のクラスの男子っていったじゃん!」

「・・・奇跡。」

「それは、否めない。」

「・・・・・で?なんて返事したの?」

「え、いや、だ、だから、あたし彼氏いるからって・・・・・」

「ふーん・・・・。」





俺はまた歩き出す。
それにちょこちょこついてくるようにも歩き出した。というか少し小走り。
多分それは俺がさっきよりも大またで、足をはやめたから。



正直おもしろくない。

ムカつく。

は絶対無いって思ってたけど、知らないところで俺の知らない奴がのいいところに気がついて惹かれていることを。

別にが悪いわけじゃない。

そいつが悪いわけじゃない。

俺も悪くない。

でもムカつく。

俺ってこんなに嫉妬深い男だったのかといつも思うけど、今日ほど自分がうっとうしいと思ったことはない。

きにいらねぇー。

あー、なんで俺こんなめんどくさい性格なんだろ。

俺だってあるじゃねーか。
告白なんてめずらしいことでもない。
だってそりゃ女なんだから誰かに好かれるのだって当たり前なわけだ。
落ち着け。
落ち着け。



落ち着け。


「隆也?」

「あ?」

「な、なんか急に機嫌悪くなった気がする。」

「別に。」

「そう・・・?」

「ああ、ついたぞ。」

「あ、う、うん・・・・。」



俺はすぐに自転車を止めて鍵を引っこ抜いた。


「そこで待ってろ。」

「えっ!?」

「あ?なに。」

「・・・・・・・・いや、別に。なんでも、ないです。」

「んじゃ。」



俺は脱いだ靴をそろえることなく家に入って母親から家の鍵を乱暴に受け取ってそのまま突っかけサンダルで外に出る。
真っ暗な外でが玄関先にしゃがんでいる姿を見て、ふと我に返った。

あいつの、悲しそうなしょぼんとした顔。


俺に気がつくと「おわ!!サンキュ!!なげてくれぃ!」なんて言って笑うもんだから。


胸には後悔の雨が降り注いだ。





つかつかと早足でのそばまで行って、戸惑う彼女を思い切り、力いっぱい抱きしめた。
はじめは身を捩じらせてなんとか離れようとしていただけど諦めたのか大人しくなる。



「どしたの?」

「ごめん。」

「いや、だからどしたの?」


ぽんぽんとが俺の背中を叩く。
俺少し力を抜いてもう一度抱きしめなおす。



「正直な話。」

「うん。」

「・・・・・・・・・・嫉妬した。」

「うん。」

「わりぃ。」


やっと手に入れた彼女という肩書き。
何十年も何十年も待った。
ほしくてほしくてたまらなかったものだから。
そう簡単に手放せないというリアルな話。

ちょっと同じ学校になったからって簡単に好きになって告白して、

両思いになれると思うなよ。


多分俺がこんなに嫉妬深いのは、

ずーっとずーっとほしかったものだから。
だから。

大切にしたいから。

多分そういうことなんだと思う。








俺が自分で考えて色々感情をまとめているとがくっくっくっと喉で笑う。





「良かろう。面を上げい。」





普段なら恥かしそうに顔を真っ赤にするだけの彼女の上から目線が妙にムカついて


でもいとおしくて




「んっ」











「遠慮なくあげました、殿。」




俺は予兆のないキスをしてやった。





「ひ、姫でお願いします阿部さん・・・」

は恥かしそうに言った。








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久しぶりの連載更新です!!
こんなんですんません。一応阿部視点なんですが、誰だお前。帰れ!偽者帰れ!!
ホントすいません。
しかも連載らしからぬきれのよさ!!ホントになんなのお前?
しかもなんか無駄に甘いしベタベタだしさぁーーー!!!ヒロインまでかわってんの?これ?なんなの?
帰れ!!私かえれぇええーーーー!!!!!


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!