「ふーーーん・・・」

「えっ自分から聞いといてそれすか?」


頬杖をついて目を細めるにあたしはメロンパンを食べる手を止めた。


お昼休み。
教室は生徒達の楽しそうなおしゃべりが色んな所から聞こえてきてとても賑わっ
ている。

そんな中いつも通りあたしとは窓際のあたしの席で向かい合って静かに過ご
していた。


あたしが今日見た夢の話をしようとしていたところで



が話せって言ったんじゃんよ!!」


「まーそーなんだけどさ・・・あまりにもが幸せそうなもんだからついイラ
イラしちゃって・・・」

「何さらっと友達としてあるまじき事言ってくれちゃってんの!?」

「・・・・友達、ね・・・」

「えっ何そのさげすんだ目。今更ながらあたしの一方通行ですか。」

「まー冗談はこれくらいにしてさ、ホントびっくりすることもあるもんだねぇ・
・・」

「あたしが一番びっくりだよ!!」



やっぱり昨日の話になるわけで、


ふうっと一息ついてがあたしを見た。



そうがこんな反応を見せるのも無理ない。






何せ昨日あたしは隣のクラスの男子から告白されたんだから。




これ一見たかが告白だとお思いがちですがね




あたしだよ?







このあたしだよ?





何度も言うけどあたしだからね


















「・・・・・えっ」


「だから俺と付き合ってほしいんだけど・・・」

「えっ・・・ばつゲームかなんか?」

「ち、違うよ!!」


それはカラっと晴れた日の事、

隣のクラスの男子から「ちょっといい?」と声をかけられて、不審に思うことなく、ひょいひょいと付いていった時。
別に知らない男子ではない。
名前は知ってる。
えーと・・・・中学の時、一回だけ同じクラスになったことあってちょっと話したことある。
そんぐらいの仲の男子。
だから何か用事だとか、そんな感じに思ったんだ。






「・・・・・え、ちょ・・・・有沢君?正気?」

「・・・・いたって俺は正気だよ。」

「・・・・・なんかやな事あったんか・・・・?」

「ねぇーよ!!俺は・・・の事が好きって思ったの!だから、お、俺と付き合わない!?」


ベタに校舎裏での告白。
こんなことなんて自分にあるわけないって思ってたのに。




・・・・?」



あたしは驚きのあまり声も出なかった。
有沢君が目の前で心配そうに「おーい」と手をふる姿にはっとする。

いけないいけない!!



ちゃんと断らないと!!!

あたしはぐんと口をつむいでから息を呑む。
ただ断るだけなのになんでこんなに緊張してんだろ。
初めての経験に足が少し震えた。





「あ、有沢君・・・ご、ごめんなさいぃいーーー!!!」


勢いよく頭を下げる。
自分の足と有沢君のあしが見えた。


「・・・なんで?」



彼の声が少し震えていることに罪悪感を感じながらあたしは恐る恐る顔を上げる。
それでも彼の顔を見ることは出来なかった。




「あたし・・・・一応彼氏・・・い、いるから・・・・。ごめんね・・・・。」

「・・・そっか。わかった!」

「ほんとにごめんね!」

「んー大丈夫!俺の方こそごめんね!」

「そ、そんなそんな!あ、ありがとです・・・・。」

「そういってくれると嬉しいな!これからも友達でいてくれよな!んじゃ時間もらっちゃってごめんね!また!!」


最後にニッと笑ってその場を去った。


あたしはしばらくその場に立ち尽くす。




気持ちい風があたしの頬をなでて、髪を少しだけ揺らした。



















「人生において貴重な体験をしたね、まったくもって!!!」

「だろうね。」


爪をいじりながらあたしを見ないでがいった。


「だろうねって!!!ちょ、人事!!」

「人事だもーん。」

「むはーーー!!!まぁ別にいいけどさ!」

は阿部一筋だもんね。」

「っ!!!」





思わずバンと両手で机を叩いて身を前に乗り出す。
でもその数秒後、クラス中の視線とのにやりと笑った顔にはっと我に帰る。





「まぁまぁ。」

「いや、なんていうかアレだよ!隆也どうのこうのじゃなくて!!あたし自身がそうやって思ってもない人と付き合うのはどうかなって・・・こと・・・だよ!!」

「はいはい。わかってるよ。」

「笑うなっつーの!!」

「はいはい。」

「はいは一回!!!」

「はーい。」

「っ・・・・絶対思ってないよね。」

「まぁいいじゃないの。そろそろ体育の準備しないと遅刻になっちゃうよ〜。」

「えぇ!?次体育だっけ!?」

「バカ。」




あたし達は急いで教室を出た。




その時のあたしは、きっと油断していた。
上手く行き過ぎた日常生活に満足して酔いしれていた。
友達がいて彼氏がいて、そして告白なんてされた日常に。
もっと慎重にならなければいけなかった。











「ホントバカ。」

「はい。」

「死ね。」

「はい。」

「消えうせろハゲ。」

「はい。」

「地球からでていけぇええーーーー!!!」

「そんなにぃいいいーーー!!お前それいいすぎだろ!!」






五時間目が始まってから20分ぐらい。
あたしとはあたし達以外誰もいない保健室にいた。
その理由はとても簡単な話。





遅刻しそうになって、あわてて階段を駆け下りたあたしが途中で足を滑らせてすってんころりん階段から転げ落ちたからだった。





しかも足をひねったらしく、に先に行っててともいえず、の肩を借りて保健室へと行くことに。
最悪なことに保健室の先生は出張中。

もちろんの事もあたしも体育の出席には間に合わず、
の機嫌も激悪い。
そして足も激痛い。





「ったく・・・・もー・・・・大丈夫?」

呆れながらもビニールに氷を詰めながらがいった。

あたしがコクリと頷くとはぁとため息をついた。



「多分捻挫だとは思うけど・・・・心配だから一応病院行きな?」

「うん・・・ホントごめん・・・・。」

「バカ。」

「ごめん・・・」

「体育なんか別にどうでもいいよ。のが大事だよ。」

・・・・・!」

「とはいったものの・・・・・さすがにこの足じゃ一人で帰れないよねぇ・・・・送っていってあげたいんだけどあたしは今日バイトだし・・・・先生に言いにいこっか。」

「・・・・うん。」

「ん、ちょっと待ってて。今担任の所行ってくる。」


はあたしの方を見て軽く手を振った後、保健室から出て行った。


一人になってつくづく凹む。


あーもーあたし何やってんだ!!
バカすぎる。
ホント死ね。
には迷惑かけるし先生もこれから来ちゃうし・・・・・




自分への嫌悪感が募る。



それからしばらくして後ろからガラッとドアの空く音がした。



「あ、センセ・・・・」


丸い背もたれのない椅子をクルリと回転させて振り向けば、そこにはと先生








?」







ではなく









「あ、りさわ・・・・君・・・・」










彼が少し汚れた体操着姿で立っていた。
逆光のせいで表情はよくわからない。
でも間違いなく彼だった。






「ど、どうしたの?」

「え、あ、いや・・・ちょ、階段から転び落ちた・・・。」

「はぁ!?バカじゃん!!」


一瞬驚いた顔をした後くしゃっと笑いながらこちらへ近づいてきた。
その笑い方が隆也に少しだけ似ていて、ドキドキする。



「うっわーーーめっちゃ腫れてるじゃん!!大丈夫!?」

「だ、大丈夫!!!っていうか有沢君はどうしたの??」

「俺?俺はサッカーで膝すりむいちゃって・・・・絆創膏もらいに来たの。」

「あー・・・大丈夫?」

「それが言うかぁ?」

「まぁ・・・そうなんだけどさ・・・・」





何気ない会話があたしにとってとてつもなく気まずく感じた。
ああ、頼む早く先生きてくれ、きてくれ、
そんなことばかり考える。
こんなにも気が重いことなんてない。
あたしはただ心の中で手を合わせるだけだった。






「・・・・!!!あのさ・・・・・・」


「・・・・有沢か?」


「「先生!!!」」



彼が何かを言いかけた途中、


天の声。





それは不思議そうな表情であたしたち二人を見る先生だった。






ナイス!!!お前ナイス!!!



心の中で先生をお前呼ばわりしながらもあたしは自然と笑みがこぼれた。



「お前こんなところで何してんだ?」

「あ、いや、膝すりむいちゃって・・・・絆創膏もらいにきたんっす。」

「へー・・・・で足ひねったんだって?」

「はい!!なんかひねっちまったみたいで!!!痛いっす!!センセ、えーと・・・・は?」

「授業に向かわせたよ。・・・・どれぇ〜・・・・・」



先生は眉を軽くしかめてしゃがむ。
あたしの足をじーっとみながら「あちゃぁ〜・・・・結構腫れちゃってるねぇ・・・・」と小さな声で言った。




「ご両親は今家にいる?」

「あ・・・・・今日は・・・いないですね・・・・」


そうだった。

今日に限って日中家にいるはずの母親は町内会の集まりで出かけている。




「うーーん・・・・」

「あー・・・大丈夫ですよ!多分骨折とかじゃないと思うし!明日にでも親と病院行ってきます!!家まではえーと・・・・なんとか帰れますから!!」


いざとなったら隆也に連絡して迎えに来てもらおう。


そんな風に思っていたとき。







「俺送りますよ。」







信じられない言葉。





全身の毛が逆立った気がした。






「有沢?」

「あ、有沢君?」













いやいや・・・・・







嘘でしょ?









「いいのか?有沢。」








いいわけあるか!!






「全然いいっすよ。」








いいわけあるかボケェええーーーーーーーー!!!!!!!
あたしはあわてて有沢君を見た。




「いやいやいやいや!!いいよ!悪いし!それに有沢君サッカー部だよね!?部活でなきゃだめだよ!一年なんだからさ!ちゃんと出ないと!!」

「いや、今日は部活休みだから大丈夫。」


バッドタイミング★
しかし!!甘いぜ有沢!
こういうのは大抵先生が送らなきゃいけないって言うのがね!暗黙のルールというかセオリーというか・・・・ねっ?先生!




「じゃあ頼むな!」







頼むなァアーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!










「良かったな!!」






うっとうしい笑顔にあたしは頬を引きつらせながら「ハイ・・・・」


というしかなかった。









こんだけ気まずいこととかやな事とか続いたんだから


まさかこれ以上のことは起こらないだろう


起こるわけがない


そう自分に言い聞かせる事しか出来なかった。





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え?・・・・阿部でてこないの?
死ねば?私。



ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!