背筋が凍った。



心臓のあたりからじわじわと俺の体の自由を奪っていくような



衝動



殴りたい。









「阿部・・・・・・?なんでお前がここに?」



有沢の体がの体からゆっくりと離れて持ち上がる。
それでも手は離さない。
驚いたような、でもどこか冷静な目に俺はッチと小さな舌打ちをする。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにしてんだよ、お前。」



信じられないくらい低い声が出た。
それは保健室の静寂に吸い込まれるみたいに消える。
蒸し暑い保健室からは消毒液の匂いとか湿気の強いベッドの臭いがした。
それすらもうざい。
なんだか体の自由を奪われてるみたいだ。


俺はゆっくりとベッドの方へと歩み寄る。
有沢は一向に手を放そうとしなかった。
それは俺への挑発か、
それともただ単にが握ったまま放そうとしないだけか。
どっちにしても虫唾が走る。



「何してんだって聞いてんだよ。」

「何って・・・・・・さんが倒れたっつーから、俺がここまで運んだだけだけど。」


そのしれっとした態度に








俺のきれやすい堪忍袋の緒はあっさりと音を立てて切れる。





「運んだだけ?じゃぁなんで手ぇ繋いで覆いかぶさってんだぁ!!!!!!!!!」




保健室に響き渡る俺の怒声。
思い切り有沢の胸倉をつかみ上げた。






運んだだけ。

だけ。


だけ?


じゃあなんで手つないで


覆いかぶさって


あれじゃまるで


キスしようとしてたとしか思えねぇーだろ。



を運んでくれたこと以外に感謝もなにもする必要はない。
下心丸出しじゃねーか。
そのくせさわやかで優しいみたいなの気取りやがって。
こーゆー奴が一番ムカつく。


「テメェー下心丸出しなんだよ・・・・・・!」

「彼女から手掴んで引き寄せてきたんだけど。」

「は?」

さん、俺にのりかえるかもなー」

「テメェ!!!」

「お前どーせ自分の学校にも女いんだろ?モテそうだし。さん泣いてたよ、今さっき。」

「なっ!!!?」

「不安にさせるようなことばっかしてんじゃねーの?」

「・・・・・・・・・・・るせっ・・・」

「愛想つかされるのも時間の問題かもな。」



クスっと余裕の笑みを見せる有沢に俺は拳をギュッと握りしめる。
殴ったら負けだ。
部活のことだってある。
でもぶん殴りてぇ。
じりじりと睨むことしかできない自分に一番腹が立った。

泣いてた?
もしかしてキャパオーバーだったのか?
最近は自分のことでいっぱいいっぱいでわかってやれなかったのかもしれない。
つーかそんな泣き顔をこいつに見られたことがムカつく。
全部ムカつく。
ムカつく。
ムカつく。


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・阿部顔怖い。」

「・・・・・・・・・・とりあえず手ぇ離せ。」

「阿部が放してくれたら放すよ。」

「・・・テメェーが先に離せっつってんだよ。」

「おーこわー。なんでさんもこんなんがいいのかねー」


茶化した態度で有沢がの手を指一本ずつ関節をのばしてひきはがすように離した時だった。













「ヤダッ!!!!!隆也行っちゃやだよ!!!!」






がバッと目を見開いて起き上った。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、」






俺と目があう。





有沢の胸倉をつかんだままの俺と。








「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」










「テメェ有沢君に何しとんじゃぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」




そう叫びながら俺に飛びかかってくる



「おい、ちょ、あぶ・・・!!」


受けとめる余裕もなく俺達は床に倒れこんだ。


「いってぇ・・・・」

「馬鹿!ちょ、あ、ありありああああ・・・有沢君大丈夫!?ごめんね!?けがとかしてない!?」

「俺は大丈夫だよ。それよりさんこそ大丈夫?」

「へ?あ、・・・・・・・・・そか、体育・・・・・・・」

「うん。俺が運んできたんだ。」

「嘘!?ご、ごごごめんね!?」

「だいじょぶだよ。」


俺の上に馬乗りになったままが有沢に声をかける。
いや、色々違げぇーだろ!!
普通はもっとこう「た、隆也!?こんなところでなにして・・・!」みたいな、そーゆーのあるだろ。
つーか俺が理由もなしにこんなことすると思ってんのか。
っていうかなんで俺が悪者?
しかもめっちゃ元気じゃねーかこいつ!!!ホントに倒れたのかよ!!


色々頭を駆け巡って駆け巡っていっぱいになる。
これじゃあだめだ。
とりあえず、とりあえず冷静になれ俺。
の混乱っぷりというかはじけっぷりになんだか逆に俺が冷静になってきた。


まずはと思いの両手をつかんで動きを制限させる。
つかまれた手首が痛かったのか「っぅ・・・」とが眉をしかめた。

次。


視線だけを有沢に向ける。

その時どんな顔をしていたのかは自分でも想像ができた。
ぎゃあぎゃあとうるさかったが俺の顔を見て一瞬で静かになる。


「・・・・・・・・・有沢。」

「何、」

「・・・・・・のことありがとな、悪いけどはずしてくれるか?あとは俺が見とくから。お前は部外者なんだし。」

「・・・・・・・・・・・ああ、じゃあさん、お大事にね。」








そう言って有沢は、さっきの挑発的な態度を微塵も見せずににっこり笑って出て行った。






「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」








俺たちは静かな保健室で二人っきりになった。





「隆也、有沢君になんてことして・・・・・・」

「先になんか俺に言うことねーのかよ。」

「え?」

「なんか言うことねーのかよって聞いてんだよ!!!!!!」

「っ!!!!」


の体がビクンと強張る。
俺の声におびえているようだった。


ほんとは
ほんとはもっと言いたいことがあった。

心配だっただけだった

俺のために何かしてくれることが純粋に嬉しいと思った

他人の前で涙を流すほど何かを我慢してたなんて知らなかった

気づいてやれなかったことを謝りたかった



なんで、

俺はいつもこうやって




「・・・・・・・・・あああ、クソッ!!!!!」

「たか、や・・・・」

「・・・・・・・・・有沢には気をつけろって言ったの忘れたのかよ・・・・・」

「わ、忘れてないけど・・・・でも、有沢君は助けてくれたわけだしそんな言い方しなくてもいいじゃん」

「・・・・・お前はホント成長しねぇーな!!俺の言ってる意味がわかんねぇーのかよ!!!」

「わかるよ!!なんなの!?隆也!!ちょっとおかしいよ!!」

「・・・・・・・は?」




俺が、おかしい?

そんなにあいつの肩もつのかよ。

俺だってそばにいたら助けに行った。

なんなんだよ、

んなんだよ・・・・・・・・・・






「・・・・・・・・・・・たかや・・・?」

「・・・おかしいのは俺かよ。」

「え?」

「わざわざ授業抜け出して、心配で、あいてぇって思って・・・・・・・・俺が気違いかよ!!!」

「・・・・・・・・・・・っ!!」

「心配して損した。」

「ちょ、た、隆也!!!」





だめだ。



もう、






止まらない。








俺の口は自我を失ったかのように勝手に動き出す。





「・・・お前有沢と付き合った方がいいんじゃねーの?」









俺はを押しのけて一人立ち上がり保健室を後にする。
その場にペタンと座り込んで、呆然としているをそのままに。











心臓の音が



聞こえなくなった。








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なんか有沢君キャラ変わってない?!こんなやなやつだったっけ!?
っていうかおい!おいおいおい!!何これ!?ちょ、どうしよう・・・(自分でやっといて)


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!!