好みとか、かっこいいとか、そんな感じで好き。



今までも



これからも


たぶんあたしはそんな人間なんだと思っていた。







すべての始まりはあたしと幼馴染の文貴のなれ合いからだった。




「ちょ、!!ダメ!!それダメ!!やっちゃダメ!!」

「だいじょぶだいじょぶ。あたし昔から射的はのび太並みに得意だったから。ヒットマンって呼ばれてたから、自分に。」

「自分にかよ!しかも射的関係ないし!!ダメ!!絶対だめ!!それ俺の教科書じゃないんだから!!!」

「だからやってんでしょー!!!」


4時間目終了後、
文貴が借りたと言っていた教科書にあたしは太いマジックで落書きをしようとしていたところ。
もちろん止めようとする文貴。
あたしだってそこまで鬼じゃない書くつもりなんてなかったよ、ほんとは。
ちょっとからかってやろうぐらいに思って、
教科書を持ったまま机ひとつはさんで文貴と鬼ごっこを楽しんでいた。



!!っめ!!」

「犬扱いしないでくださいぃー!なにぃ?そんな必死になるってことはあれか、女か?」

「うるさいなぁーーー!!そんなんじゃないから!!!さっさと返せって言ってんでしょーが!!!」

「アハハハしょうがないなぁ、じゃーかえしてあげる、よぉあぁあああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」










あたしはいつだって詰めが甘い。
よく言えば、あれだ。
笑いの神がついてる。

だから今日もまたやった。
マジックを握ったまま、足をもつらせてバランスを崩す。
それにとっさに反応して後ろの机に手をつくもマジックを握ったままの右手は大きく振りぬかれる。





「・・・・・・・。」

「・・・・・・・っぶな・・・・」


かろうじて転ばなかった。
良かった痛くない!!
あたしって、もしかしたら運動神経あるんじゃね?
とか思って笑顔で文貴に「ほら!!」と教科書を差し出すと、彼は青ざめた顔で手を伸ばす。
その一部始終を呆れた顔で見ていた花井も
くすくすと笑いながら楽しそうに千代ちゃんも
一言も何も言わずあんぐりと口をあけたままあたしを見ていた。



「・・・どうした・・・・・・・・・・」





言葉の途中でポンっと重みのある手があたしの肩を叩いた。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」




振りむいちゃいけない気がする。

あたしの本能がそう察しても、その手は肩から動こうとせずもう一度ぽんと肩を叩く。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



あれ?
魔王?
魔王の声がするよ?
明らかにきゃぴきゃぴの青春するっス★みたいな高校生の声じゃない。
しかも背後には収まりきらなかった真赤な怒りのオーラがギリギリ視野に入るか入らないかのところまで出てきている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴという漫画みたいな効果音を人生で経験できる人間ってどれぐらいいるんだろうね。
あたしってばかなりのラッキーマンじゃない!!
プラス思考もむなしく、肩をつかむ手がどんどんめり込んでゆく。





「・・・・・・は、はい・・・・・?」



あたしはゴクリと唾を飲み込んで、
首だけをそーっとそーーーっと後ろに回した。





そこには青筋を立てた、


いつもの1000倍怖い阿部隆也が

左ほっぺたから鼻を通って右ほっぺたまでピーーーっと黒い線を引かれた顔で







「・・・・・・・・・・・なんの嫌がらせだコラ・・・・・・・・・・・・・・・・」






口角を引くつかせていた。



「いや、あの・・・・ねぇ?傷があった方が、ほら、英雄みたいでかっこいいと思うよ?
阿部のワイルドさがまた一段と上がってかっこよくなったよ。よっ!男前!!ほれちゃいそう!!」


「言いたいことはそれだけか。」

「いや、事故です!事故なんです!!」

「自己?自分に己と書いて自己か。」

「違う!違う!!事の故(ゆえ)と書いて事故です!!!」

「テメェーはなんでこうもう俺を怒らせることしかしねぇーんだよ!!!!!!!!!!!」

「わざとじゃないんですぅーーーーーー!!!!!!!!」



怒られても当然。
これが初めてじゃないから。

入学式からあたしは阿部に呪われている。
いや、正確にいえば阿部があたしに呪われてるのか。
とにかくあたしが何かするたびにやたら阿部に被害が及ぶ。

入学式はあたしの花粉症のせいでくしゃみが止まらず、横を向いてブエェクションとノーハンドでくしゃみをしたら
その横にたまたま阿部が居て唾がお米粒のごとくすべてかかった。

文貴が野球部に入ったから!と言い出したからじゃああたしも!マネジ!と言ってついて行った日。
ワクワクドキドキで階段を駆け下りてトイレの前を通り過ぎた時、阿部が用を足し終えて出てきた。
びっくりしてあたしはステーンと顔から転んだら、
正面にいた阿部のまだベルトの締まりきっていないズボンをつかんだまますっ転んだせいで
阿部のズボンをきれいに脱がすという奇跡に成功した。



もう数えきれないぐらいにいろいろやらかしていて阿部はあたしを警戒していた。




あたしは阿部と仲良くなりたいだけなのに・・・・・・・!
なぜ・・・・・・・!



部活では絶対話しかけてこないし、重要事項はだいたい千代ちゃんに聞いてる。
たぶんあたしを嫌っていると思う。
授業中だってぼーっとしててたまたま阿部が視野に入って、
阿部の視野にもたまたまあたしが入ってばっちり目があってもキッときつい目つきで睨まれて視線をそらされる。

高校三年間、
早くも一年目で人から嫌われるという快挙達成です。
悲しすぎるんですけど。
あたしだって阿部が嫌いで意地悪してるわけじゃない。
チームメイトだし、クラスメイトだし、
好きなのに!!顔は割と好みだし、
野球してるところとかはかっこよくていつも見とれてしまう。
嬉しそうに笑う顔だって、かわいくて好きだし。
授業中に疲れてうとうとしてる顔も。
いや、顔以外にも好きだけど!!!さけられてるからわかんないだけだけど!!
だからこそ、もっと阿部を知りたいのに・・・・・・・・・・・。




「洗い行く!!!!!!!!!」

「いってらっしゃい!!!!!!!!!」

「テメェーもくんだよ!!!!!!!!!!」

「ぇえ!?」


そう言って阿部はあたしの首ねっこを乱暴につかんで教室をあとにした。










「・・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

阿部はズンズンと大股で廊下を歩く。
あたしは阿部に首根っこをつかまれたまま、それに逆らうことなく引きずられて行く。
すいません。片方上履きが脱げたんですが。
それを言い出す暇もなく、阿部は水道の前で止まって顔を洗う。

あたしはしゃがんで、その様子を下からのぞきこむようにして見ていた。

ばしゃばしゃと水しぶきをばげしく飛ばしながら洗えば
水性マジックの傷は見る見るうちに消えていった。









「・・・っふう。」


水を切るように顔をあげる阿部。

水も滴るいい男ってね。
怒ってないと結構男前だよね、阿部。

あたしはしゃがんだままタオルを差し出しだしてぼーっと彼を見ていた。



「・・・・・・・・んだよ。」


顔を拭きながら阿部は眉間にしわを寄せた。


「いやー阿部って・・・・・・・・・・かっこいいなーって」

「はっ!!!?」

「え、言われない?中学の時とかモテたっしょ?」

「んなことねーし!!」

「えぇー嘘だぁー。あたしはめっちゃ好みだしかっこいいと思うよ?超好き。」

「は?何それ、告白?」

「いや、告白っていうか告発?阿部君をもっと知りたいのに阿部君がわたしを避けます!!みたいな。」

「こっちのセリフだわ。が俺にいやがらせばかりしてきます。死刑にしてください、みたいな。」

「わざとじゃないんだってば。」

「は?ぜってぇーわざとだろ。」

「違います〜ホントは仲良くなりたいんだよーぅ」

「へーへー」

「流されたー」

「俺は軽々しく好きとかいう女は信用できねーんだよ。」


くるりと向き直って歩き出す阿部。

あーなんかちょっと傷ついたかも。
こういうキャラってある意味そんだな。

でも、それでももっと阿部を知りたいと思ったあたしは
マゾの素質があるのかもしれない、となんとなくぼーっと頭の中に残った。




「おい、。」

「ん?」

「別に嫌いじゃねーから。」

「・・・・・・・・・・何が?」

「・・・・・・っ・・・・お前のことだよ!!!」






「んじゃ、」といってまた歩き出す阿部の背中をあたしは黙って見つめることしかできなかった。





あれ、



いま

ちょっと


ときめいたかも。




-------------------------------------------------------------------------
早くも死亡フラグが・・・・・・・・・!
これ連載にする意味あるんですか。
すぐに完結しそうな予感満載ですがどうぞお付き合いください!!

ではではここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!