「あら。おはよぉ、ちゃん。ちょっといいかしら。」
朝、家の前であたしの足を止めたのは隆也のお母さんだった。
「ちわっす!なんですかー?」
「今日おばさんねぇ、ちゃんのお母さんと一緒に出かける約束してるの。」
あたしと隆也はお隣りさんで、家族絡みで仲がよかった。
特に母親同士は二人で旅行に行く程。
「それでねー遅くなりそうだからうちん家で二人の分の食事用意しといたから食べてね。」
「あ、ありがとうございまっす!あれっ?でもパパん達はどーするんですか!?」
「適当に外で済ませるように伝えておいたから大丈夫よ。」
・・・・適当て。かりにも主なのに・・・・。
まぁこんなことは日常茶飯事。よくあることだった。
ここまでは。
「それでね、ここからがやっかいなんだけど・・・・これ。」
そう言っておばさんがポケットから取り出したのはシンプルなシルバーのチェーンがついた鍵。
あたしはその鍵に見覚えがあった。
「・・・・隆也の鍵?」
「そーなのよ〜あの子ったら鍵忘れて行っちゃって・・・・たしかちゃんの学校って隆也の学校からそんなに遠くないわよね?」
「・・・・・・・・・・は、はい・・・・・・・・・・・・。」
まさかおばさん・・・・・・・・マジ?
「ホントに悪いんだけどあの子の事向かえに行ってあげてくれない?」
マジでかぁぁあああああ!!!!!
「えっ、でも、あの!ほら!あたしが阿部家で待ってればいいんじゃないですか!!?」
あたふたとするあたしの肩をおばさんは軽く掴んでニッコリ笑う。
「でも、アノ子カギないことわかってると思うの。そーなると今日一日どこで過ごすのかって話になっちゃうでしょ?」
「えっ!!?じゃ・・・えっと・・・ほら・・・あー・・・・」
「大丈夫よ!あの子部活忙しいみたいだから、ちゃんの学校からゆっくり行ったって学校にいると思うのよ。隆也のことよろしくね。」
おばさん?何も大丈夫じゃないよ?
私そうに告げておばさんはいそいそと足早に家の中へと消えていった。
あたしのカーディガンの右ポケットに隆也の鍵をさりげなく流し込むように入れて。
これがすべての始まり。
別々の学校に通うようになったあたしたちの
隙間を埋める事になる鍵
お互いの心の素直な部分を開かせる鍵になることを
この時のあたしはしるよしもなかった。