ただいまの時刻、19時55分29秒。
あたしはどこか浮かない気持ちで西浦へと向かう。
別に隆也に会うのがいやなわけじゃない。
ただ普段と違う場所で普段と違う隆也に会うとなると話しが違うわけで。
やばい・・・・緊張してきた。
つくな・・・・・西浦につくなつくなつくなぁああー!足折れろ!!!通りすがりの人に殴打されろ!!!!
「・・・・・。」
そんな願いも虚しく(そりゃそうだ)あたしは正門の前で仁王立ちしていた。
「・・・・・お、女は度胸。負けんなあたし。」
あたしは深呼吸して入口に大きく一歩踏み出す
それと同時にぽんぽんと大きく弾みながら野球ボールがあたしの方へと飛んできた。
なんとなく反射的に取ろうと思ってかがんで手をのばしてみたのだが、
「ギャァアアアア!!!」
イレギュラーバウンド!!!
グラウンドが整備されきれていないのかボールが不規則な動きであたしの弁慶さんにごっつんこ☆
地味に痛いったらありゃしませんよー!!!!
「ごご、ご、ご、ごめ、ん・・・・なさ・・・・!!!」
「はい?」
あたしがすねを摩りながら前方へ視線を移すとそこには猫(っぽい子)が一匹(つーか一人)グローブを付けて半泣きであたしを見ている。
多分こいつが取りこぼしたんだろう。
泣くことないと思うけど。
むしろ泣きたいのはあたしだよ。痛いっつーの。
「あー・・・・大丈夫ですよ!はい、ボール!」
あたしからボールを受け取った彼は目を丸くしてあたしをみている。
「・・・・・あの?ボール・・・・」
「あ、ありがとう、ございます!!」
はっとしたと思ったら彼はぶんぶんと頭を上下にふる。
「いやいやいや、そんな、とんでもないですよ!」
つられてあたしもお辞儀した。
って、よく見れば、黒のアンダーシャツにユニホームみたいなの、おまけに野球ボールときたら・・・・
この人・・・・・
「・・・あのー・・・・もしかして・・・・野球部の人、ですか?」
「えっ?あ、は、はい。」
「うっわ!超ラッキー!!!!」
「あひぃ!!!」
あたしは勢いあまって彼の両手を掴んでしまった。
彼の体がビクッと体強張りぽろりとボールを落とした。
「あっ!ゴメンなさい!!あの練習ってもう終わりますか?」
「ふぇ!?あ・・・・えと、あの・・・く、じ・・・ぐらいまで・・・・」
「はぁああああ!!!?」
「ひぃ!!」
9時!?9時って大抵ドラマ始まるアノ9時ですか!?いやいやいやいや・・・・
「・・・す、すみませ・・・・」
「・・・・あ、いや、ごめんなさい・・・・。全部悪いのは阿部隆也なんで気にしないでください。」
「あ、阿部君!阿部君は、悪く、ない、です・・・」
・・・・・・何が?
「・・・もしかして、隆也と友達だったり?」
「と、友達と、いうか、ウヒッ!」
彼は心なしか嬉しそうに笑う。
仲良いのかな・・・・?
そーいえば隆也はあんまり高校の話とかしてくれないっけ。
部活は一年生しかいないってことと・・・・まぁそれ以外は知らない。
・・・あれ?
そーいえばあたし
いつから隆也とゆっくり話してないんだっけ?
昔はよく・・・・・
「おい!何してんだよ。早く練しゅ・・・・・」
そこに聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、」
「あ、阿部く、ん!」
「…は!?!!?おま…何でこんなとこにいんだよ!!」
「ちーーーっす、阿部くん。」
隆也の目が真ん丸になってあたしを凝視している。
そんな驚いたのか。
「いやーあたしもびっくりだよ。よくここまできたもんだ・・・・。」
「はっ!?なにしに来たんだよ!!!?」
「これこれ!!!」
そう言ってあたしはポケットから鍵を取り出してわけを説明する。
隆也は左手で頭を押さえてため息をついた。
・・・つーか顔が怒ってる。
自分のミスのくせして。
それでも、あたしはとにかくこの西浦から出たかった。これ以上隆也の知り合いにあいたくない、会いたいけど会いたくないという矛盾した気持ちでいっぱいだった。
「えーと・・・・そう!今この子に話し聞いたら終わんの9時なんだって?頑張るねー。つーかあたし先に隆也ん家行ってて留守番してるよ。それでいいでしょ?」
「あ?・・・あー・・・・いや、駄目だ。」
「はっ!?なんで!!?」
「なんでも。おまえが解る必要がねぇ。」
いやいやいや!!!あるでしょ!?待つのはあたしなんですよ・・・・?
「なに!?何心配してんの?例のピンクの隠し場所ならとっくに知ってるから大丈夫だよ?」
「ぴん、く??」
猫のような少年は首を傾げる。
「はっ!?・・・・・お前ホントなにしに来たんだよ!つーか三橋!お前は先に戻ってろ!!」
「ッ!!は、はいぃ!!!」
三橋と呼ばれた少年はわたわたと隆也の指示通りに駆け足でグラウンドの隅の方に戻って行った。
「いやーなんかかわいらしい子だねぇー。」
「お前よりはな。」
「うわ。相変わらずだね。阿部君。」
「まあな。つーか阿部君言うな。とりあえず監督と顧問に許可とってお前を・・・・」
「だ・か・ら・さっ!先に帰ってるって言ってんじゃん!」
「だ・か・ら・駄目だっつってんだろ。いいから俺の言う事聞け!」
隆也はあたしのおでこをピチンと叩く。
・・・上からのもののいいぐさ・・・昔からかわらないなぁ・・・・
隆也のこーゆーところに食いついてよく喧嘩したっけ。
今ではずいぶん昔の事のように思えた。
「とりあえずこっちついてこい。」
「いやいやいや!やだよ!待ってんのめんどいし・・・ほら!あれだよ?あたしみたいなのと一緒にいるとことか見られたらファン減るよ〜?」
ふざけ半分で言ったのに
「別に興味ねぇー。学校の女子なんかほっとけ。」
なんてさらっというもんだから・・・・どうしても気になった。
「ねぇー・・・・なんで、あたし帰っちゃダメなの?」
そういっても、隆也は歩き出していてとまる気配はない。つーか振り返りもしない。
「ねぇーねぇーねぇー!!たーかーやーくぅーん〜?」
あたしが後ろから裏声交じりでしつこく聞くと、隆也の足が止まる。
あたしも立ち止まると、
「うっわ!」
手首をつかまれて隆也がくるりと振り向いた。
「・・・・っ!俺が嫌なんだよ!!!夜に一人でお前を帰らすのが!!!」
「は?」
「いいから黙ってこっちこい!」
そんなこと言われるなんて思ってなかったあたしは
「クククククク・・・・・・・!!!」
「笑ってんじゃねーよ!」
笑いがとまらなかった。
「あは・・・ひーひー・・・・たかやぁ・・・」
「あ?」
「ありがと。」
「おう。」
隆也にそんなこと言われたら待ってたくなるじゃん。
恥ずかしくて、でも嬉しくて。
あたしは隆也の手を握り返す。
「じゃーお言葉に甘えて待たせていただきまっす。」
「ソーシテクダサイ。」
あたしは少し後ろをゆっくりと歩いた。
子供のころのように手をつないだまま。