「ホントにごめんね・・・・」

「いいよ別に。」



阿部君はそう冷たく言い放った。



あああ・・・・き、気まずすぎる・・・・・・・。

あたしはちらりと阿部君に視線を移した後、またプリントをまとめる。



二人きりの教室は静かすぎて怖かった。
パチンパチンと紙をとじるホッチキスの音と紙をまとめるばさばさとした音しかしない。








そもそもどうしてこんな状態になったかというと・・・・

原因は4時間目の倫理のせい。












「えー別に俺は大丈夫だと思うよ?」

「無理無理無理ーーーーーーーー!!!絶対無理だよ!あたしなんてすぐだよすぐ!」


小さいくぐもった声でおしゃべりをするのはあたしと水谷だった。
でもただのおしゃべりじゃない。




それは





「告白して大丈夫だって!なんなら俺が機会作ってあげようか?」





恋愛相談。





中学校の時、一度だけ隣の席になってからあたしはすぐに阿部君を好きになった。それからずっと片思いをしてきた。
高校だってぶっちゃけ「え、阿部君って西浦・・・・!?」という噂を小耳に挟んですぐに第一志望を変えたし(おい)
ずっと片思いでいいと思っていたあたしは同じクラスになれてラッキーぐらいに思ってたんだ。

彼をさりげなく眺めて入れればそれで幸せ。そんな感じ。
だってあの時以来席も遠いし違うクラスになったりもしたし全然接点がなかったから。

そんな時席が近くて仲良くなったのが阿部君のクラスメートであり部活のチームメイトである水谷文貴だった。
彼はとっても話し易くて人見知りのあたしも打ち解けるのにそう時間はかからなかったわけで。
あるとき「って好きな人いんの?」なんて聞かれてすんなり「うん」と答えてしまってからずっと彼に恋の相談をしていて今に至る。









「機会!?無理無理無理。あの顔見てみ?殺し屋の顔してるよ。阿部君女の子とか興味なさそうだし。」

「えー?いつもあんな顔してると思うけど?」

「違うんだよ、なんかあたしの時は違うんだよ。なんかこう・・・・殺す!って顔してんの!!」

「なんでだよ!大丈夫だって!あーゆーのに限って案外むっつりすけべだったりするんだよ。」

「えぇ!?阿部君ってむっつりすけべなの!?」

「え、知らないけどなんかそんな感じしない?いつもはクールで気難しいけど実は〜みたいな?」

「っぶ!!!確かに!!!」





水谷の思わぬ一言にあたしは耐えられずにっぷっと噴出してしまった。
不覚だと思った。



「ん?どうした?」


っと先生があたしを見た。
その時のあたしはあまりに動揺していて先生の鋭い視線とこっちを見ている数名の中に阿部君の視線も混ざっていてもう何がなんだか状態。
打たれ弱いんだよ、うん。
びっくりしてつい、ついうっかり




「えっ!!!?いや、だって阿部君が!!!!」










水谷の名前を出せばよかったものの




頭の中には阿部君しかいなくて






『阿部君』というワードを


一番のNGワードを口にしてしまった。






阿部君が見たことも無いような驚いた顔であたしを見た。



先生の口角がこれでもかと上がって








「そうか。それなら阿部も同罪だなぁ・・・・二人には放課後レポートの整理をしてもらおう。」














・・・・・・・・・・・・・・・・・・





ああああああああああああーーーーーーーーーーーー!!!!!











ということで今に至るわけだ。





申し訳ない気持ちでいっぱいなのにちょっと嬉しかったりして自分で自分に呆れる。





でもそんなあたしとは対照的に阿部君はむすっとした様子でレポートを整理していた。
あああ。
やっぱり怒ってるよね。部活行きたいよね。
その顔を見たらやっぱり心の中は罪悪感でいっぱいだった。

外からはオレンジ色の光が差し込んできて眩しい。
阿部君も眩しいのか目を細める。
その顔は色気があって思わず見入ってしまった。
彼は今何を考えているんだろうか?
スッと視線を落とせばゴツゴツしていて大きい手が目に入った。
あたしとは明らかに違うたくましい腕も。
高校に入って少し体が大きくなったように感じた。




「何?」


「え、いや・・・いい体してんなぁーって・・・・・・・・・・」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!!!



あまりに見入ってしまっていたのかその張本人に話しかけられていることも忘れて素直に頭の中の言葉を口にだしていた。
あたしはあわてて口元を押さえる。
手に持っていたまだ閉じられていないプリントがぱらぱらと床に散らばった。





「っごごごごごーーーーーごめん!!!違う違う!別にそーゆーんじゃないから!!!ホントに!ごめんなさい!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・っぷ・・・・・」

「ぇえ!?」




以外な反応にプリントを拾おうと席を立ったままあたしは彼を見た。
いつもは眉間と眉間がくっつくんじゃないかと思うぐらいに寄せられているあの眉は見たことも無いぐらい穏やかな顔を作っている。
あの彼が
クスクスと笑っていた。







「・・・あーうけた。あ?どした?」

「あ、阿部君って・・・・笑うんだね・・・・・」

「あ?そりゃ笑うだろ。」

「そ、そうだよね・・・うん。笑う、よね・・・・中学のときは、た、たまに笑ってたもんね・・・・アハ、アハハハ。」

「あー、相変わらずだな。」

「え!?」



相変わらずという言葉に胸が弾んだ。





「中学んとき以来じゃね?こんなにしゃべってんの。」












?」






心臓が急に爆発したんじゃないかと思った。







だって、





だってだって





「あ、あたしが隣の席だったとき・・・・覚えててくれたの・・・・・?」








「はぁ?覚えてるっつーの。」









嬉しかったんだもん。


あの阿部君が
あたしの事を覚えててくれたなんて思っても見なかったんだもん。













「おい、?」


「え、え?あ、ごめん何?」


阿部君の声にまた現実世界へと引き戻される。


「プリントひろわねーの?」

「あ、うん。ご、ごめん。」



そうだそうだ、

あたしはスカートが広がらないようにスッとしゃがんで急いでプリントをかき集める。
あ、あれ・・・・・んだこれ・・・・
プリントは床にぴったりと張り付いてなかなか上手く拾えない。



「・・・・・・・ったく。」

「あ・・・・」


目の前の影がすっと降りてきて、プリントを少し丸める。
その隙間には彼の手が器用に入って上手にプリントを床からはがすようにとった。





「あ・・・ありがとう・・・。」

いつもよりも近くてあたしは思わず俯いた。
きっと顔どころか耳まで赤いんじゃないかと思うぐらいに体は熱っぽくってプリントを急いで掴む。





つかんだんだけど・・・・・・





「あ、あれ・・・・ちょ、あ、阿部君・・・・・?」






あたしが掴んでいるのにもかかわらず


彼の手はプリントを離そうとはしない。




ぐいぐいとひっぱっても駄目。


ふざけてるのかな?
と思ってちらりと彼の顔を見てみると

いつものアノ顔だった。
険しい顔。
あたしはごくりとつばを飲み込んだ。








「あ、ごめんね!!部活行きたいよね!?もうすぐ終わるし先生にはあたしのほうからちゃんと言っとくから大丈夫だよ!」

「・・・・・・・・・・。」

「ごめんね!ホントは何にも関係ないのに!!!貴重な時間を借りちゃって・・・ホントに申し訳ない!!ごめん!!!」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・あ、阿部君・・・・・・?」





何を言っても何にも言わない彼にだんだんと恐怖すら感じてきた。
彼は黙ったままプリントも離さない。どこにも行かない。
座ったままただじっとあたしを見ている。
恥かしさと怖さと訳がわからなくてあたしは息を呑んだ。





少しだけ開けられた窓から心地よい風が吹いてきてカーテンをヒラヒラと揺らす。
その影が阿部君の顔にかかって模様みたいに見えた。
わからない。
彼の今考えてることなんて検討もつかない。
あたしはただ彼を見つめることしかできないでいた。













「俺とはそんなに居たくないわけ?」








「・・・・・・・・・・・・え?」








「水谷とはあんなに顔近づけて話すくせに、楽しそうに笑うくせに。俺とはやなわけ?」








意味がわからなかった。
イラついたような彼の声がやたら耳に残る。
眉間のしわが濃くなった。






「水谷の事好きなのか?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」





その言葉の後、阿部君ははっとしたような顔であたしを見た後にぱっとプリントから手を離す。
彼の手から離れたプリントはもう重力にさからうことなくだらんと下を向いた。
さっきまであたしと彼を繋いでいたプリントがやけに薄くてぺらぺらに感じた。







「わりぃ。なんでもないから。」



っすっと立ち上がって席のプリントをまとめる音がする。
あたしはまだ立ち上がることができないでいた。
彼の顔を見るのが怖くて、
少しだけ
少しだけ自惚れてる自分が情けなくて、
真っ赤になったこの顔を彼に見られたくなくて。









トントンとプリントの下をそろえる音が聞こえた後、阿部君が鞄をすっと持ったのがわかった。










「じゃ、悪いけど俺部活行くわ・・・・・・・・・・」







スッと彼の足があたしの目の前を通過するかしないかの手前。






彼の足が止まった。




違う。






あたしが止めた。







阿部君のYシャツの裾がさっきのプリントみたいにピンと張ってる。
彼は驚いた様子であたしを見た。



もう、目はそらさない。










「阿部君が、ずっと好きだった。」










何年も暖めてきた言葉は自分が思っていたよりも簡単に口から出て行った。






ぼっと阿部君の顔が赤くなったのを見て、
あたしも我に帰ったかのように耳まで熱くなる。
心臓が爆発するんじゃないかと思うぐらいに五月蝿くて五月蝿くて、静かすぎる教室に響いてるんじゃないかと思うぐらいだった。









阿部君の口からすぐに返事が聞こえるなんて思ってなかったけど、



シャツの端を掴んだ手をぐいっと引っ張られて、すっぽりと彼の腕の中に納まったあたしの耳にそっと近づけられた口から





「俺も、ずっと前から好きだった。」









と息の混じったつぶやくような声に











あたしはにやける顔を隠すようにそっと彼の背中に手を回すのだった。












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あれ・・・このオチなんか前に見かけたことがあるような・・・・気がしないでもない・・・・?
気にしない気にしない。恋は過程が大切☆なんてホントスイマセン。
なんか青春っぽさがでてたら幸いでっす・・・・・・




ここまでよんでくださって本当にありがとうございました!!!