ああ


あたしふられたんだ。



目の前で彼はあたしに背を向けて歩きだす。




「ごめん。好きな子が出来た」



それはついさっきの出来事。

食事も終わってのんびりしていたときの事。

一瞬時間が止まったのかと思った。

でも、屋上の風はあたしと彼の髪をサラサラ靡かせてる。
あたしの心臓はドクンドクンと脈打ってる。




そう。時が止まるなんてことないんだ。




「・・・うん。わかったー」


ありえないぐらい明るい声が出る。


「じゃーこれからは友達としてよろしくー」


思ってもいない事が口から飛び出て、信じられないぐらいような清々しい笑顔。



なんであたし

笑ってんだろう。


なんであたし

こんな頑張ってんだろう。





それでも彼はあたしのそんな姿をみて少し安心した様子で、
「そっか」と小さく声を漏らす。

彼の背中が見えた時、
本当はしがみついた方がよかったのかもしれない。

「いかないで」
その一言がどうして言えないの?
困らせたくない。迷惑かけたくない。

そんなこじつけみたいな厚かましい理由が頭を過ぎった。



そんなの嘘だよ。




別に好きで付き合っていたわけじゃない。嫌いじゃないから付き合ってた。ただ
それだけの話。
じゃーなんでこんな気持ちなの?自分でもよくわからない。
悔しいとも悲しいともせつないとも言えない気持ち。だけど言えるのは、いい気
分じゃない。




あたしはそのまま屋上でぼーっと過ごす事にした。
11月の乾いた空気が頬を撫でる。携帯のバイブがコンクリートの上で3回ぐら
い鳴ったけどあたしは携帯に触る事なくただ空を見上げていた。
あいにくの曇り空が無性に虚しく感じる。いっそうの事ドシャ降りになるぐらい
にザーザー雨が降ってくれればいいのに。

そしたらいくら泣いたって
誰も気付かないのに。

・・・ああ。別に関係ないよね。あたしが泣いてようと
もう誰もあたしに気付いてくれる人はいないんだから。







?」

「・・・花井。」


もうすぐ泣き出しそう、そんな時に現れたのは同じクラスの花井だった。
あたしは携帯をに目線をゆっくり移す。


ああ、電話・・・。
花井からだったんだ。


「ったく。電話してもでねーから・・・どーしたのかと思った。」
「ゴメンゴメン。気付かなかった。」

「いや、いいんだけど・・・・あー・・・もしかしてサボり?」

「ん・・・うん。まぁ。」

「・・・・そう。そっか・・・。」




花井は頬を掻きながら罰のわるそうな顔をする。

やなやつ。
優し過ぎるんだよ。



「気付いてんでしょ?」

「えっ、あー・・・」

「気にしなくていいよ。別れるなんてなんとなくわかってたから。」

「・・・・・・。」

「なんで花井がそんな顔するの?」








が泣きそうだから。」








静かな声があたしの鼓膜をゆっくり揺らして言葉を脳に届ける。

言葉の意味を理解する前に、花井の顔がみるみるうちに歪んでいった。
ポタリ、ポタリと乾いたコンクリートに吸い込まれるみたいに涙が落ちていった




・・・」

「あれ・・・、あた・・・」

、」

「アハハ、ちょ、みないで・・・」

・・・っ!」



恥ずかし・・・!
あたしは必死に顔を隠しながら涙を拭う。それでも止まる事ない涙はあたしの頬
を濡らしていく。
もう一度「見ないで」と言おうとしたとき、花井におもいきり抱きしめられてい
た。



彼とは違う匂い、大きな体はあたしをいとも簡単にすっぽりと包み込む。



「はな・・・!!!」

「これなら、顔見えないだろ。」

ギュッと顔を胸に押し付けられた。あたしの頭を撫でる大きな手が温かくて、あ
たしの涙腺を緩めた。


初めて男の前でないた。

彼氏の前でだって泣いた事なかったのに。


あたしは子供みたいにわんわん声をあらげて泣いた。




「無理すんじゃねーよ。辛かったら弱いとこ見せたっていいんだよ・・・。」




優し声にあたしの心の刺は洗い流されていく気がした。




いつのまにか5時間目の授業は終わりに近づいていた。
西日があたしの醜い顔を照らす。



「ったくー花井のばかー」

「はぁー?俺か?」

「女を泣かせるなんて悪い男だー」

「なっ・・・!」

「でも、サンキュー。服濡らしちゃったね・・・。」

「・・・別にいいって。」

「なんか元気でたかも。」

「よかったな。」

「あーもー!!花井うぜーマジうぜー!!!」

「はいはい」








「そんな優しくされたら好きになるよ?」




ホントに冗談のつもりでそういった。
ホントにホントに冗談。






「なればいいじゃん。俺は・・・を泣かさないよ。」






あまりにも花井がかっこよく見えて

しばらくぽかんと口を開いて見とれてしまった。








花井と付き合って



ホントにホントに心から人を好きになる




その話は



まだもうすこし先の事。








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初の梓夢!!!ああああああーーー!!こんなんでいいのかな?でもなんかこう・・・男らしい感じがします(へたれっぽいけど)
マジでこのお兄ちゃんはもう・・・・面倒見てもらいたくてしょうがない私です(笑)

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!