別にどうってことはないんだ。
ただのあたしの早とちり。

でも、


寂しくて

会いたくてしょうがなくて

あの大きな手で頭をなでてほしいということもまた事実で。





布団の上で寝返りをうつと、後ろからどーんという派手な音が聞こえてきて、
よりいっそうあたしの胸を締め付けた。


あの空がはるか遠くに感じる。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」




こんなことなら意地なんて張らずに達についていくべきだったかな・・・・・・・・。



ゆっくりと体を起こすと頭がずしっと重く感じた。
あたしはのろのろと姿見の前まで行くと浴衣の帯がふわりとゆれる。
薄暗い部屋で華やかで淡いピンクのはずの浴衣もすさんだ色に見えてならなかった。





本当はこの姿を一番見せたい人がいて



似合ってる、と照れくさそうに言って欲しくて


この花火を音だけじゃなくて二人で眺めたくて




「・・・・・梓ぁ・・・・」




あたしの口からポツリと漏れる。









それは一ヶ月前のことだった。
あたしと梓がレンタルビデオ屋によって梓の家に向かう途中、
あたしの目にとまったのはひとつの浴衣だった。






「・・・・・・・・・・・・・・・・かわいい・・・・・!!」


ガラス一枚で仕切られているそこはまるで別世界が広がっているようにも感じられた。
夏っぽく飾られたそこに、淡いピンク色で少しアジサイの花が栄える。ふわふわの帯が蝶々みたいで。

あたしはいつのまにかそのショーウィンドウに釘付けになっていた。





「へぇーもう浴衣の時期なんだなぁ・・・・・」


梓がぽつりと言う。


「・・・なんかおじさんみたいなこと言うね。」

「・・・・・。」

「うわ!嘘!ごめん!怒んないで!!」

「別に怒ってねーけど・・・・。」


青筋を立てながら梓もチラリとガラス越しの浴衣を見る。




「・・・買うの?」

「ぇえ!?いや、べ、別に!!どーせあたしには似合わないよ!!!」


突然の彼の言葉にあたしはあわてて返事をする。
うん、わかってるんだ。
どーせあたしにはこんなかわいい浴衣・・・・浴衣に着られてしまうにちがいないんだ・・・!
ふう、と一人ため息をつく。



















「・・・・・・似合うと思うよ。俺は。」






















「えぇ!?」

あまりの驚きに梓の方をバッと勢いよく見ると彼はあたしを見ないようにして「ほら、行くぞ!DVD見る時間なくなる」といってそのままあたしの手を引いた。
後ろから彼の耳が真っ赤になっているところを見てあたしも頬が熱くなる。
もしかしたら繋いだこの手から体温がつたわってしまっているかもしれないと思うぐらいに。





でも嬉しかった。


彼の一言があたしの心を大きく動かす。




その日からあたしは友達の誘いも極力断り、
コンビニによったり本屋によったりするのもやめた。



そしてようやく手に入れた。


店員さんにも「これかわいいですよね〜最後の一着だったんですよ〜」なんて言われて。


あたしはウキウキで袋のヒモをにぎりしめて家へ帰る。



梓からのメールにも気が付かずに。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」












梓の一ヶ月の部活の予定が出たらしい。
うん。そこまではいい。
うん。


うん。





でも、



でも、




なんでよりによって、




2週間後の土曜日が、午後から部活入ってるんですか・・・・・・・・?
だってその日は・・・・・・・・・








あたしはその夜梓に電話した。




疲れたような声が受話器越しに聞こえる。




「あ、梓ぁああ!!お疲れ様!!!」

『お、おう・・・どした?』

「ど、どうしたもこうしたもないよ!!土曜日!は、花火大会!!」

『土曜日・・・花火大会・・・・あー・・・・うん、わり部活・・・・・つか行くなんて話してたか?』

「いや、全然!話してはないけど・・・・い、いきたかったなって・・・・・」

『おお・・・悪いな、とでも行ってくれ。また来年な。』


申し訳なさそうで、どこか優しい梓の声にあたしもただ「うん」ということしか出来なくて。
そのまま電話を切った。










花火大会。

別に約束してたわけでもない。
でも、心のどこかで一緒に行く気でいて、
しかも付き合ってちょうど2ヶ月の日で。
別になにかお祝いしようなんて思ってないけどなんとなく一緒に過ごしたくて。
そんな日が花火大会なんてなんてラッキーなんだろうとか勝手に思ってて、
舞い上がった挙句浴衣まで買って








「こんなのってありですか・・・・・・・・」





たしかに全部100パーセントあたしが悪くて、あたしが勝手に舞いあがって勝手に落ち込んでいるだけなんだけどさ。















姿見に映る自分の浴衣姿。

あたしって本物のおバカさんですか。
自分で自分の浴衣姿みるためにこの浴衣買ったわけですか。
なんなんですか。
ただのナルシストですか
無念な奴ですか








「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・。」



思わずため息がもれる。








河川敷はすぐそばなのに
行く気にもなれない。



時計の針が9時をまわろうとしていた。


もうすぐこのどーんという音も聞こえなくなってしまう。
花火大会が、終わる。






今日が終わればこの空しさも面白おかしい思い出話になるわけだよね☆
気 に し な い☆











いや、あたしはそんなにポジティブシンキングにはなれないって!!!


自分で自分にツッコミを入れてまたベットに倒れこむ。
もうこのまま寝てしまおうか。
そっと目を閉じた。







それからしばらくして


どこか遠くから聞こえる音にあたしはそっと目をあける。

気が付くと携帯が光っていてそれが梓からの着信音だと気が付いた。
あたしはあわてて通話ボタンを押す。




「も、もひもひぃい!!!」

『おもくそかんでんな、おい・・・・。』

「ご、ごめん、今起きた。今何時?」

『んと・・・・9時40分ぐらい。』


それを聞いてあたしはいつの間にか寝てしまったということがわかった。
軽く目をこする。


「おおおお・・・・ど、どうしたの?」

『ん・・・・今からちょっと出てこれる?』

「え、何処まで?」

『駅のそばの公園。』

「わ、わかった!!」




あたしはあわてて軽く化粧を直して家を飛び出す。






外の風は少し冷たくてあたしの眠気をさまさせるのには調度良かった。


それからしばらく歩いて公園が見えてくるとベンチには見慣れた頭。




「うりゃ」


「うぉおおお!!」



後ろからわしづかみにしてみると大きな声が聞こえて
梓がこれでもかといわんばかりに目を見開いて振り返った。




「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「お待たせ」

「・・・・・・・・・ああ。」





ちょっと残念。
第一声で似合ってるとかそーゆー言葉があってもいいななんて期待してたから。
別にいいけど。



「めずらしいじゃん、こんな時間に呼び出すなんて。」

「ああ、ごめん。」

「いいよ別に、どしたの?」



「・・・・・・これ、」






そういってすっと差し出されたビニール袋には色んな花火が入っていた。









「・・・・・・・・・やんね?」








「・・・・・・・・・梓・・・・・・。」









「いや、今日花火大会だったのに、部活あっていけなかったし、楽しみにしてたみたいだったから。」

ぽりぽりと頬をかきながらあずさは照れくさそうに言う。
小さな外灯がひとつの暗い公園だけど梓の赤くなった頬はよく見えて
胸が大きく高鳴った。
全部の血液が一気に心臓に集まってくる感じ。
嬉しさのあまり口元が緩む。




約束もしてなかったし


あたしが勝手に楽しみにしてただけだし


部活でくたくただろうに


それなのに





こんなあたしのためにこの人は・・・・・・。








「・・・・・やっぱこんなんじゃ駄目?」






「全然!!!だめなんかじゃない!!やろ?」








あたし達は誰もいない公園で二人小学生みたいにはしゃぎながら花火をする。
赤や緑や青や黄色、色んな色が鮮やかにはじけてあたしと梓の笑顔を照らした。




とにかく胸がいっぱいだった。
世界中探したって
こんなにあたしを幸せにしてくれる人は梓以外いないんじゃないかと思う。

でもそんなことは恥かしすぎていえないから
この花火のはじける音にかきけされないように



「ありがとう!!」


と一言いった。



それだけなのに、さっきよりも嬉しそうに笑ってくれる彼がいとおしくてかわいくてかっこよくって


あたしも釣られて笑う。



























「なんかこんなんでごめんなー。」


最後の線香花火を見ながら梓が小さな声で言う。


「なんで?楽しいよ?」

「んー・・・でもあんなでかい派手なやつじゃねーし・・・・」


少ししょぼんとした表情が線香花火のかすかな光に照らされていた。















「・・・・・・・・・・あたしはっ!でかい派手な花火が好きで楽しみにしてたわけじゃなくて、梓と見る花火を楽しみにしてただけだから・・・・別にこれで充分たのしい・・・・の、です・・・・・。」







・・・・ああああああ!!!!!!

言った後に恥かしさがこみ上げてくる。
我ながらなんて照れくさいキザな台詞だろうか。
梓を見ることが出来なくてあたしはじっと線香花火を見続けた。
ぱちぱちと小さな音を立てて、丸くたまのようにはじける花火は空に打ち上げられた花火なんかよりも綺麗だと思う。
・・・・・今日結局打ち上げ花火見てないからわかんないけど。
でもこれはあたしだけの花火だから、特別綺麗なんだ。




「うりゃ。」


「ああ!!」


花火に見入っているとあたしの手首にトンとちょっぷが落ちてきて、
ぽたりと下に玉が落ちる。



「梓ぁ!!馬鹿ァ!!」








キッとにらみを利かせながら彼の方に振り返ると、


一瞬だけかすかに唇を掠める何か。





それが梓の唇だと気づくのにそう時間はかからなかった。







「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」





すぐに梓が俯いて口元に手を当てていて、
あたしも頬を押さえて自分の顔の熱を分散させる。




「・・・・・・・・・・・・・花井君。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・自分から大胆なことしといて、あたしより照れるのやめてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪い・・・、」

「あやまんなくてもいいって!」

「・・・・・あーもぉーーー!!!!」




梓はすくっと立ち上がりごみを少し乱暴にかづけだす。
その背中がかわいくって、あたしはしゃがんだまま声を殺して笑った。




、それ。」

「ああ、ごめん、ありがとう。」


あたしの手にもったままだった線香花火のごみをビニール袋に入れながら、梓はハァとため息をつく。


「・・・・梓?」

「来年は、浴衣買わなくていいよ。」

「・・・・・・・・・・へ?」


とてつもなく急な梓の台詞に意味がわからずあたしは首をかしげる。
梓はビニールの持ち手をぎゅっと縛ってあたしの手を引いて歩き出す。




「来年はちゃんと打ち上げ花火みながらその浴衣みたいから。うん。やっぱ似合うよ、それ。」



さらりとそんなコトをいってのけて。






あまりの不意打ちにあたしの顔が真っ赤になっていることは


この暗闇のなか


少し先をあたしの手を引いて歩く梓は


多分気づいていないんじゃないかと思う。











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しねぇえええええええ!!!!
私しねぇええええーーーーーーーーーー!!!!
花ちゃんこんなんでごめんね、嫌いにならないで。
うちリクエストされるとこんな感じになっちゃう習性があるんだ・・・・うん。
どんな習性だよ!みたいなね。ホントごめんね。
字とか間違ってたらホントごめんね、
脳内で上手く変換してね。
梓が誰だって感じになってるところも・・・・う、上手くフォローしてやって・・・・・
愛だけははちきれんばかりにつめこみました!!!


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!