「三橋ってさ」

「な、に?」

「可愛いよね」

「ふえぇ!!?」



●当たり前の日常とあたしと怖がりな猫●



あたしがそう言うと彼はビクッと肩を震わせて、赤面した。
心なしか髪も逆立っている気がする。




「そ、そんなこと、ない!」



下を向きながら首を振る三橋。

それがかわいいっていってんだよー!

あまりの愛らしさに思わず口元が綻ぶ。




「そんなことなくない!なんか猫みたいでカワイイと思うよー?」






うん。

我ながら素晴らしい例えだと思う。
少しつりあがったクリクリの目と柔らかそうなくせっ毛。
声をかけた時の反応と表情なんて駐車場で目が合った時の猫とうりふたつだ。

「ここまでかわいい男子にあったことないよ、あたし!」

興奮気味で言う。

「そそそんな!!さんの、「ねーねーねーねー!!三橋ー!!この問題の答えって何ー?」


「・・・・・田島。」


三橋がとろとろと話し始めた途中で騒がしく割り込んで来たのは破天荒少年田島だった。


ちょうど、時間は数学でしかも自習。きわめつけに見張り役の先生も途中でどこかに行ってしまったためもはや正直自由時間に等しい。



チッ・・・久しぶりに三橋とゆっくり話せるチャンスだったのに。



「田島の馬鹿。」


いろんな意味で。



「えー!!難しいよコレ!!三橋出来た!?」


だからそういう意味じゃないんだってば・・・

そう思いながらも田島と二人で三橋を見る。



すると彼は申し訳なさそうな顔でうつむいた。


彼の答案用紙にはぽつぽつと小さい薄い文字があるだけ。
多分自信なくてうっすく書いたんだろうなぁ・・・



「ほらー!三橋だってできてないじゃん!!は?」

「・・・まぁ、こんぐらいならなんとなく。田島は何処がわかんないの?」

「やれるだけやってみた!」

そういって田島はあたしに答案用紙を突き付ける。


「皆無!!消しゴムで消したあとすらないじゃん!!ったく・・・・間違ってても恨まないでね!」


あたしが田島に自分の答案用紙をわたすと彼はニコッと笑って三橋の机でがりがり書き写し始める。




それと同時にきょろきょろおどおどという効果音があたしの横からきこえてくる(ような気がする。)




「・・・っ、あの・・・えと、オレ・・・」

「はいはい。あたしのでよければ写して良いよ。」


彼はぱぁーっと嬉しそうな顔をした後「あ、りがとう」とどもりながら小さい声で言う。







ちくしょう


ホントカワイイな。


ただ、ボール投げてるところは別人みたいにかっこよく見える。
普段の気の弱そうな彼からあんなプレーが見れるなんて思ってなくて、

かなりギャップにも惹かれていたりもする。


ああ、なんかもう・・・あたし三橋がかなり好きなんだなぁ・・・・

かわいいとか、かっこいいとか、それだけじゃない気持ち。


好き。
超好き。
あーやばい、これ抱きしめたいわー。


そんな中2の男子みたいなコトを考えながらゆっくりと三橋に視線をうつす。
彼は田島と一緒にいそいそとあたしの答えを書き写していた。

ああ、そういえば・・・ふと思い出したコトがひとつあたしの頭を横切る。


「三橋。」

「・・・な、に?」

三橋はプリントからゆっくりあたしに視線を移して軽く首をかしげた。


「さっきあたしになんて言おうとしたの?」

「あ・・・」

はっとした表情。一瞬周りのうるささすら何も感じなくなったくらいあたしは三橋に集中した。

そんな顔されたら余計気になるよー!!!


気になって思わず身を前に乗り出したとき、

ありがとーー!!!!」


田島の大きな声があたしを教室という現実に引きずり戻した。


はい、出ましたよ、KY。


空気読めない!田島!!!


「・・・お前わざとだろ。100兆パーわざとだろ。なぁ・・・なぁあ!!?」

「えっ??なっ、ちょ痛い!!!痛いよ!!胸当たる!嬉しいけど!!」


あたしの十八番技ヘッドロックを田島におみまいしてやった。


「うるさいうるさいうるさぁーーーい!!馬鹿!お前さっさと席もどれ!!!」




ギャーギャーと騒いで暴れる田島と怒り狂う凶暴なあたしを見たせいなのかなんなのかよくわからないけど、
三橋がおどおどしながら「ごめんなさいぃ!」とあやまり続けた。


はじめは田島に夢中で見てなかったから気づかなかったけど・・・声がだんだん涙声になってきて、途切れ途切れになってきて、
気になって視線を三橋に向けてみる。

まさか・・・・




「ゴメン三橋!あたしが悪かった。ホントとすいまっせん。だから泣くの
はやめて!すごい罪悪感が・・・」

「泣くな三橋!俺は厳密に大丈夫だよ!!」

「う・・・う、ん・・・」



いつのまにか三橋を泣かしてしまっていた。



「なぜ三橋があやまる。つーかなんで三橋が泣くのさ・・・そして田島は厳密の使い方が相変わらず違うし!」


「いいんだよ!それじゃサンキューな!!」そう言って田島は満足そうに答案用紙を持って自分の席へと戻ってゆく。


謎が多い天然二人を相手にしたせいでどっと疲れた気がする。





「はぁー・・・・・で、でさ、さっきなんて言おうとしてたの?」

あたしは机に突っ伏して三橋にもう一度話を切り出した。


すると彼は下を向いて恥ずかしそうに「な、なんでもない、んだ・・・たいした、ことじゃ・・・」ともごもご言ったあとすべて
埋まった答案用紙をじっと見続けてぽつりとつぶやいた。。

「く、さんの方が・・・かわいい、よ・・・・」

そういった後、三橋の顔がボッと赤くなる。


三橋の馬鹿!!!

反則だよ。



「あ・・・・ありがとうございます・・・。」


あたしは机に伏せたまま三橋に負けないぐらいの赤い顔を隠しながら言った。

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・あ、」

「あ??」

「ありが、とう!!」


ズイっと両手で三橋はプリントを前へ差し出してきた。



・・・・ああ、それね。

何か思い切ったように口を開くもんだからなんかドキドキして損したじゃん。


はじめは普通にプリントを受け取る予定だった。

でも、三橋に揺さぶられている今、なんとなく悔しい。
だからちょっと大胆なコトをしてみようと思う。


あたしは一呼吸おいて三橋の差し出したプリントを受け取った。
平常心平常心と心の中でつぶやく。


「いいよ別に。あたし三橋のこと好きだし。」

「へぇ!?」


普段の2倍ぐらいの三橋の声。

思い切って告白してみたものの、実はかなり緊張してるあたしはプリントを受け取ってそのまま見直し確認に入る。

一切三橋を視野に入れることなく黙々と。



時間は3時27分


3時30分には授業が終わる。



三橋は何も言ってこない。

困らせた?迷惑?あたしの事好き?それとも嫌い?

気になるけど怖くて聞けない。


とりあえず授業が終わった瞬間に席を立とうと心に決めた。


このまま逃げ切れればまた明日、普通に話せるぐらいのことはできそうな気がするから。



三橋は何かいいたそうにしているけど、あたしからは絶対に話はふらない。
っていうか、ふれない!!!

三橋がもごもごしている間も時間は刻々と過ぎていく。



沈黙がこんなにも息苦しかったことは今まであったろうか・・・

時よ早くすぎろ!頑張れ!ペースアップペースアップ!!と時計に必死で訴え続けること三分。


―キーンコーンカーンコーン



とうとうチャイムがなった。


みんなプリントを供託へともっていきがてら廊下に出ていったり、帰り仕度を始
めたりと一気に教室は開放感にあふれた。


よっしゃ!!脱出!!!



と思っていたのに・・・なんとなく、三橋が何か言ってくれないか正直期待してる自分がいる。
でも、三橋が声をかけてくる気配はない。そして気まずい。
しょうがないので、あたしはそれとなく席を立ってトイレへと向かうふりをすることにした。




軽く椅子をひいたときだった。


「お、お、俺ぇえ!!」

「ぇえ!?」

三橋がさっきよりも大きな声で切り出すものだから、ビックリして思わず三橋を直視してしまう。
真っ赤になった三橋を見たら、あたしの頬まで熱くなるのが自分でもわかった。


「俺も・・・さんが、好きだよ!」






意外だったというべきか、

驚いたというべきか、

とりあえず自分の目が丸くなってる気がする。





「・・・ホントに?」

「ほ、ホントに!」

「恋愛感情で?」

「う、うん!」

三橋は首が取れるんじゃないかと思うぐらいに大きくうなずく。じんわりと汗がにじんでいた。


「じゃー・・・・付き合う・・・・?」

あたしがぎこちなくきりだすと三橋もぎこちなくうなずいた。










そのあとのホームルーム中にちらりと三橋をみたら、

いつもはかわいい猫みたいに見えてた三橋が、かっこいい男の子に見えて

ドキドキしたことは、


まだ彼には内緒にしておこうと思った。





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初三橋夢。こういうかわいいキャラは書きたいのですが、うまいことつかめなくて苦戦してます。とりあえずは・・・
おおめにみてやってください・・・。