今日、はじめて廉と喧嘩をした。
付き合い始めて3週間ぐらい。
順調だったあたしたち。
ただ
あたしたちは何も始まらなかった。
部活忙しいのはわかってたし、疲れてるのもわかってたからお家デートでも全然嬉しかった。
一緒に居られるだけで充分だし嬉しそうに部活の事とかクラスの事を話してくれる廉が大好きだったから。
でも、さすがにあたしもなんていうかこう・・・先に進みたい気持ちもあるわけで。
手つないでみたいし、一緒に帰ってみたいし、たまには外を二人で歩いてみたりしたい。
できることならさすがにキスぐらいまではしたい・・・・!
そう思ってるあたしとは裏腹に廉はあたしの「部活終わるまで待ってるから一緒に帰ろうよ!」という誘いを(勇気出していったのに!)
遅くなっちゃうし危ないから・・・先に帰ってて・・・と、断固拒否。というか泣く。
レンレンに泣かれちゃあたしも・・・・負けるわけでね。
だけど、こんな状況でこの先付き合ってるって思える?
そんな自信はあたしにはない。
つーかなんかこのまま先に進めない気がする。
ヤダ。ヤダヤダヤダヤダヤダァアアーーー!!!!!!
「・・・・はぁ。」
ため息をつきながらあたしはボーッと教室の窓からグラウンドを眺める。
グラウンドでは運動部が忙しそうに活動していた。
それでもあたしの目にとまるのは野球部だけ。
その中に廉の姿を見つける。
廉はびくびくしながらも心なしか楽しそうにボールを投げていた。
・・・・・・・・。
今日のことなんて忘れてるみたいに。
昼休みの事。
あたしと廉は一緒に過ごしていた。
廉は見かけによらずよく食べるから、大きいお弁当箱にたくさん色とりどりのおかずを詰めて持っていくと「ありがとう」と嬉しそうにほうばる。
そんな顔を見るのが嬉しくて、あたしはいつも6時に起きる。
クラスが違うために場所は屋上とありきたりな感じだけど、
天気がいい日は気持ちいいし、開放されてる事はあまり知られていないのか人も少ないからあたし敵には結構気に入ってる。
「廉ー。」
「・・・?な、に・・・・?」
ご飯をほおばる廉にあたしはそわそわしながら話をきりだした。
「今日は一緒に帰らない?あのね、今日委員会があるから、きっとちょうど部活終わる時間とかぶると思うんだ・・・だから・・・。」
正直自分からこういうことをいうなんて女々しいような気がしてちょっと気が引けたけど、
それでも廉と一緒に居たいっていう気持ちがあたしの心の天秤を大きく傾けた。
ホントは時間がかぶるなんて嘘。委員会はあるけどそんなにおそくならない。
だけどこれなら怒られないはず!つーか泣かれてもいいから今日は押し切ってやる!!
そう思ってた。
でも廉は泣いたりあたふたしたりしないであたしから目をそらして下を向く。
「・・・・もしかして・・・・いや?」
恐る恐るあたしが聞くと肩をびくつかせた。
太陽に雲がかぶさって空は暗くなる。
廉は俯いたままつぶやくみたいな小さな声で言った。
「・・・・だって・・・俺・・・・一緒に歩いて・・・・るとこ見られたら・・・・・」
うう・・・とうなるみたいに言った。
自分の手にグッと力が入るのがわかった。
あたしは黙って箸をしまって食べかけの自分のお弁当の蓋をパチリと閉じる。
廉は不思議そうにあたしを見てから「も、もう、た、食べないの?」と普段どおりに言う。
でもあたしには普段どおりに振舞う余裕はなかった。
「・・・うん。もういいや。今日から一緒に食事すんのもやめる?そんなにあたしと一緒に居るところ見られんのが困るんでしょ?嫌なんでしょ?」
「ち違っ・・・・」
「ごーちーそーさまでしたぁーーー。はぁーい!どーぞ大好きな部活にでもなんでも行ってくださーい!大好きな阿部君が君を待ってるよー!」
廉が何かを言い終わる前にあたしは自分のお弁当箱をさっさと片付けてすっと立ち上がる。
「ちがう、よ!ちゃん!ちゃん!」と廉の声が聞こえたけどあたしは聞こえないふりをして階段を早歩きで下りた。
正直な話泣きたいと思った。
なんで?
あたし達って付き合ってんじゃないの?
あたしと付き合ってるって知られたくないの?
そんなに恥ずかしいことなの?
「お、俺も!俺も、ちゃんのこと、す、好きだよ!」
誰も居ない教室で、あたしの気持ちに頬を赤く染めて、いつもより大きな声で言ってくれた。
普段ならきょろきょろしてるのにちゃんとまっすぐあたしを見て言ってくれた。
どーせふられるだろうなって思いながらも伝えた気持ち。
クラスも違うしそんなに気まずくはならない。
ダメだったら栄口にでもなぐさめてもらおっかなーなんて考えてて。
でもあたしの目の前でにっこり笑ってた廉は正真正銘の本物の廉で、
あたし達は付き合うことになった。
野球で忙しいのは全然大丈夫だし、部活が理由で会えないのは苦じゃなかった。
野球してる廉はすっごい楽しそうだし、嬉しそうだったから。
たとえその笑顔があたしにむけられてるものじゃなくったって、廉が笑ってるだけであたしも笑顔になれた。
あたしはどんだけあの挙動不審が好きなんだって話。
「・・・・・。」
やっぱり廉はあたしの事好きじゃないのかな。
っていうか、流れにのっちゃったみたいな?
こう・・・あたしの好き好きーみたいなのをよけきれないでノリで付き合っちゃったって感じで・・・。
っていうかあいつあたしとノリで付き合ってんのか?
でも廉って案外モテるし・・・・。
あたしみたいなのとはノリじゃ付き合わないよね。
・・・・・ネタ!?ネタで付き合ってるとか!?
つーかどのみち無念!あたし無念だよ・・・・。
色々考えてみたけどなんにもわからなかった。
だってそうだよね。
あたしの気持ちはあたしにしかわからないし、
廉の気持ちは廉にしかわからないんだから。
だから言葉がある。
自分の気持ちをちゃんと伝えられるのって言葉だけなんだよね。
「・・・・はぁ・・・・。」
「えーっと・・・・?」
「え?」
聞きなれない声があたしの名前を呼ぶ。
あたしはグラウンド側に向いていた体をそのままに首だけを廊下側に向ける。
そこにはもう部活動を終えたのか、ワイシャツ姿の阿部がいた。
黒髪の廉よりも少し背も高い、細身だけどどこかがっしりとした体で、女子に人気がある奴。
その程度の情報しかない彼とは初めてしゃべる。
「・・・・阿部?」
「阿部。」と右手を上げて彼は頷いた。
「あたしになんか用かい?」
「・・・・お前三橋となんかあったのか?」
初めてしゃべる人なのに・・・
なんなのコイツ。
人のプライベートにいきなり土足で踏み込んでくるなんて。
さすが、人相どおりの男だね。
「・・・捕手ってそんな権限もってんの?」
「はぁ?」
「ごめん。なんでもない。で、なんだっけ?三橋がどうかしたの?」
「、三橋と付き合ってんだろ。なんかあったのかって聞いてんだよ。」
「・・・ふーん付き合ってること知ってるんだ。」
廉はてっきりあたしと付き合ってること知られたくないのかと思ってたからちょっと驚いた。
「あー・・・。まぁ俺は知ってるけど。まぁ知ってようが知らなかろうが投球でわかるし。」
「え!?あたしと付き合ってるかどうかが!?」
「ちげーよ!なんかあったかどうかとか。調子悪いとか。」
「まぁ、あいつは嬉しそうにしてる時にどーしたって聞けばすぐお前の事話すよ。」と目を細めて阿部はかったるそうに言う。
「ふーん。投球でわかるってそれすごいねー阿部が彼女になってあげた方がいいんじゃないの?」
「はぁー!?気持ち悪りーこというなよ。大体あいつ今日泣きながら部活きたんだぞ!?」
「えぇ・・・・なんで!?」
「オメェーのせいだろ。」
「え、あたしの・・・せい?」
「とぎれとぎれで俺じゃよくわかんねーところはあったけど・・・・って確かに言ってた。」
「・・・・ふーん。」
「ふーんっておま・・・彼女だろ!?」
「・・・どうだろね。」
あたしはまたグラウンドに向き直る。
「なっ!」
「廉はあたしのこと好きじゃないみたいだよ。」
あたしは何処を見るわけでもなく、ボーっと外を見ながら言った。
いつの間にか日はすっかり落ちていてあたしがどれだけの時間一人で考えこんでいたかがよくわかる。
バカだな。考えごとでこんな時間つかっちゃうなんて。
・・・別れたくない。
それだけは頭のど真ん中にあったけど、
あとは何にもわからないまま。
無意識にも長いため息をついた。
「そそ、そんなこと、ないよ!!」
おどおどしたしゃべりかた。
廉にそっくりでちょっと笑えた。
「ったく、何そのモノマネ。激似てるんだけど。」
「いや本物。」
「え?」
ビックリしてもう一度廊下の方を見てみればそこには確かに廉の姿があった。
目のあたりを真っ赤にして今にも泣き出しそうな表情で。
「もー自分でしゃべれるみてぇーだし、俺は行くな。」と廉の肩を軽く叩いてからせを向けて歩き出す阿部。
ちょっと行ったところで「ちゃんとストレッチしろよ!」という声が聞こえた。
「れ・・・ん・・・。」
「お、俺!ちゃんが好き、だよ・・・。ホントに、ホントに、感謝、してる。」
「・・・だって、一緒に帰りたくないって、言ったじゃん・・・・・。」
「ち、ちが・・・そ、それはっ・・・・お、俺、俺なんかと、俺なんかと一緒にいる、所見られたら、ちゃんが、やな思いする、と、思って・・・・」
「・・・え?」
「だ、だって俺、だ、ダメなところばっかだし、俺みたいなのが彼氏だったら、ははずかしいかなっておも・・・・」
廉の口が止まった。
多分理由はあたしが飛びついて、ぎゅっと力いっぱい抱きしめたから。
「、ちゃん!?」
「バカ!!恥ずかしいわけないじゃん!自慢の彼氏だよ。あたしの自慢の彼氏だよ、三橋廉は。」
「ちゃ、ん・・・・。」
「うん?」
「・・・俺、ちゃんの、こと、す、好きだよっ!」
「・・・うん。あたしもだよ。」
「お、俺、い、一緒に、か、帰りたい!」
「廉・・・。」
「わ、わがまま、いって・・・ご、ごめんなさい・・・」
「だーかーらーわがままじゃないってば!嬉しいよ!あたしも一緒に帰りたい!」
「う、うんっ!!」
ゆっくりと体を離せば廉が耳までまっかにして笑っていた。
あたしもつられて笑う。
「帰ろっか。」
あたしは席に戻って鞄を肩にかけると、廉はきょろきょろと視線を泳がせる。
「・・・・廉?」
ま、まさか今更になってやっぱり一緒に帰りたくないとか!?
不安が頭を一瞬よぎる。
廉はスポーツバックの肩掛けの部分をぎゅっと握ってあたしを見た。
あたしもすこし戸惑いながらも廉と視線を合わせる。
「あ、あの、えっと、あの、お、おれぇ・・・・。手・・・手・・・・。」
「・・・手?」
あたしは右手をひらひらとさせると廉は頭を大きく上下に振って頷く。
「手、つ、つないでもいい、ですか!!?」
廉の大きな声が誰も居ない教室に響き渡った。
日はすっかり暮れていて、いつのまにかあんなに五月蝿かったグラウンドも静かになっている。
暗い教室でもよくわかる廉の猫みたいなキラキラした目があたしをまっすぐ見つめる。
あたしは黙って廉の手を取って歩き出す。
廉もはじめは「え、あ、うわぁ・・・」と落ち着きがない様子でいたが、あたしは足を止めずに歩きつづけると黙ってあたしの手をギュッと握り返した。
「廉。」
「は、はいぃ!!」
「これからは、廉からつないでね。手。」
「う、うん!」
まめだらけの廉の手はゴツゴツしてて硬くてちょっと痛かったけど、
あったかくって大きくてあたしをつつみこんでくれていた。
廉は口下手だし挙動不審だし泣き虫だし野球バカだけど、
その手があたしの手を握り返してくれるだけで、
幸せだよ。
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レンレン・・・ああ、愛が空回りの私です(笑)最近阿部阿部阿部阿部で・・・レンレンがかけなくなってる!!
なんか偽者チックですいません・・・!
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!