「三上」

「あー・・・」

「ちょっとそこの消しゴムとって」

「ああ」

「サンキュ」






三上に取ってもらった消しゴムをごしごしとノートにこすりつける。


三上と渋沢の部屋であたしは黙々と現文の勉強をしていた。
二人の部屋だけど渋沢はさっき出ていってしまって今はあたしと三上の二人きり。
カリカリと言う鉛筆の音と三上の雑誌をめくる音以外は静かな部屋だった。


別に、あたしと三上は付き合ってない。
あたしと渋沢ももちろん付き合ってない。
仲のいい友達なだけ。
でもあたしの気持はそれだけじゃなかったりする。
そしてなかなか言い出せなかったりする。
ありふれたパターンだったりする。
だってあたしは普通の女子だもん。



でもってやっぱり好きなんて言えない。



部屋にお呼ばれするぐらい仲の良い友達だから余計に。



そしてきっとあたしみたいな女なんとも思ってないだろうと
100パーセントぐらいの確率で言える「三上亮」が相手だからさらに。


顔よし、頭はまあまあ、んでもってあの有名サッカー部で10番務めちゃうような男がモテないわけがない。
しょっちゅう女と歩いてて、それも毎回違う女で。
関係を聞けば「別に」の一言。彼女ではないってことで。
はじめは、なんなのこいつ、超うざいんですけどとか思ってたはずなのに


話してみたら案外餓鬼で、うざくて、一緒にいて面白くて、優しい一面も持ってたりして。





ああ、あたしはその辺の女と変わらないということを思い知らされるぐらいに夢中になっていた。











「何書いてんの?」



不意にこちらを見ずに三上がたずねる。

いや、勉強してんに決まってんだろ。
なんだこいつ、お前勉強しねーのかよ!!!
無駄ってことかコラ。





「ラブレター」



思っても口に出さずにあたしは黙々と文字を綴る。
ああ、この問五が終わったらそろそろ数学に手をつけようかな。





そんなことを思いながら、消しゴムに手を伸ばしたときだった












「そんなのいらねぇー」











ポツリと聞こえた一言に
あたしの手は止まった。










「いや、誰がお前にやると言ったあぁああ!!!!」




書いてないけど。




「言ってなくてもわかる。」

「はぁ?」




三上がぴしゃりと雑誌を閉じて立ち上がった。


あたしは眉をしかめたまま奴を見る。



細くて長い指がするりとあたしの手からシャープペンシルを奪う。









「宛先はもちろん、三上亮、だろ?」








三上はにやにや笑いながらくるくるとシャープペンをまわした。

その手の上で三上の自由自在に回されるシャープペンはあたしのように思えてしかたない。
三上にお願いされればむすっとしながらでも手を貸してしまう自分。
来いと言われればブーブー言いながら部屋にこうして来たりして。




全部見抜かれて、
全部知られていたのだろうか。
そう思うだけで顔から火が噴き出しそうだった。








「この天狗野郎・・・・」


うざいな、こいつ・・・・・・・・・!
ここで「べ、別にあんたなんかへの手紙じゃないんだからね!!!
っていうか手紙なんて書いてなしい!!バッカじゃないの!!?」

なんて切り返したら今はやりのツンデレみたいで悔しいし、あたしキモイし。



あーもー・・・・・やだ・・・・・・・・・





?どうなんだよ。」

「んなわけないし。つーかあたしがラブレターなんて柄じゃないっしょ?」


緊張もドキドキも全く隠せてないくせに、まだあたしは冷静を保とうとしていた。



「でも、俺のこと好きだろ?」

「なんでそーなるかな・・・」


目をそらしながら頭をかく。
完全にばつの悪さをかもしだしてる。
一方的に気まずいあたしはもう三上を直視することができずにいた。





「まぁ別に好きじゃなくてもいいんだけどよ」

「いいのかよ!!」


「別にこれから恋人として付き合っていく上で、もっと素直に口が開けるようにすりゃいいだけだしな。」




「あんたね!付き合っていくってそん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・付き合っていく?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恋人として?









三上の言葉に一瞬脳みそが大破したのかと思ったけど





あたしは今ちゃんと頭抱えてるし、痛くないし、
耳か?耳に異常事態が起こったのか!?



混乱しているあたしの思考回路を完全に停止させたのは



そっと頬に触れた柔らかい感触。

















「んじゃこれから彼女として、よろしく」









15センチくらい離れたところにある三上の顔はにっこり笑ってあたしを見ていた。





「ちょ!!なんで!?なんで、どういう・・・」

「あ?何が?」

「付き合うとか!彼女とか!!」

「いや、なんかクラスの奴がお前を気に入ってるとかっている信じられない噂を小耳にはさんだから」

「おぉおおおーーーいい!!信じられないわ余計だよ!信じられないけど!で!?だからぁ!?」

「・・・もう、付き合ってるようなもんだったろ?俺ら」

「んなことないじゃろ!!!」

「・・・・かんでんじゃねーよ」

「うっるさいな!!!だいたい告白されてないし!先にキスとかすんなし!!変態!!」

「いいんだよ別に」

「よくないよ!!そういうことはちゃんと順序を踏んで・・・恋のABCに乗っ取らないと・・・」












、好きだ。付き合おうぜ」







唐突な告白とまじめな表情にさっきまでのあたしのマシンガントークはあっさり止まってしまった。
その顔のまま、三上はあたしの手をバッと素早くとる。



「えー」


「は?」





そして次はその手をそのままグイッと引き寄せられて




あたしの唇は簡単に三上に奪われてしまう。
軽く触れて離された。

突然のことで頭が真っ白になるあたしを見てにやりと笑みを浮かべる三上。








「びーっと、これで気がすんだかよ?」






「・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」






「んじゃ、次Cだな」



「ちょっ!!!!まてぇええーーーーーーーーーーーいい!!!!!!!!!」







こいつにロマンチックとかそういう素敵な思考はないのか!!!
ああ、なかったかも!!!って自問自答!!!








机を乗り越えてこっちに来ようとする三上を必死に止めながらそう思った。



それでも、このやる気のないわかりやすいようなわかりにくいような曖昧な始まりかたが


あたし達らしいのかもしれない。





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私の書く三上んはなんだかスケベですね。でもたれ目キャラってそんなイメージ←



ここまでよんでくださって本当にありがとうございました!!