「すまない。」

「何謝ってんの?教科書ぐらい気にしないでよ。」

「ありがとう。」


優しい笑顔。
それにドキドキしてるあたしなんかに、渋沢は微塵も気づいていないんだろう。



珍しく渋沢が教科書を忘れた。
だからとなりの席のあたしがみせてあげる。
当たり前の、別に普通のことなのに。


あたしにとっては特別なこと。


距離がいつもより近い。

薄茶色の髪の毛が光に透けて見とれてしまう。


大きな手。
ゴツゴツしてるのにとても綺麗な指先が愛しい。


真剣に授業を受けるその横顔はサッカーをやってるときは全然違うけど、あたしを酔わせるのには充分だった。












好き。
大好き。









目を閉じて、渋沢が笑う姿を想像するだけで心が満たされた。
あたしに笑ってみせて?
その大きな体であたしを包み込んで。
そのあったかい手であたしの手をとって。



離さないでね。















「なんだか・・・・」

「ん?」





には助けられてばかりだな。」





申し訳なさそうに渋沢が笑った。







「そんなこと、ないよ。」





あたしの目が灰色に曇る。



「ばかだなぁ!なに気にしてんの?キャプテンのクセにー」

「それは関係ないだろう。」


くすくすと喉で笑う。
口元に手を当てるクセ。
もっと豪快に笑えばいいのにと思ってしまうけど、それがまた渋沢らしくて好き。







「俺に出来ることがあったら、言ってくれ。」



チャイムと同時にペンケースにシャープペンを戻しながら渋沢が言った。





「・・・・・・・っ」





息が出来ない。
胸が苦しい。


いっても、いいの?

もしあたしが言ったら、
協力してくれる?





?」





心配そうに渋沢があたしの顔を覗き込んだ。





「・・・うん!ありがとう!でも、大丈夫だよ!なんもないし!!」


「そうか?それじゃ、教科書ありがとな。」




そういって席を立つ。




おねがい。
お願い。

行かないで。





「うん。」





あたしは手を伸ばすこともできずに渋沢を見おくる。



視線の先には


渋沢と、


頬を紅潮させる女子生徒。









『俺・・・実は・・・・・』





渋沢があたしに話を切り出す前から知ってた。



渋沢がその子を好きなことも、


その子が渋沢を好きなことも。




それでもきっと邪魔することはいくらだってできただろうね。


だけど渋沢が、


あんまりにも嬉しそうな顔をしてその子の事を話すから

あたしはどうすることも出来なかった。


手を伸ばす勇気もないあたしが、


あの笑顔を奪う権利も、手にする権利もないもんね。







好き。



大好き。




あたしだけに笑って?
あたしだけを見て?
あたしだけを・・・・・想って?







せめてその渋沢の存在を



あたしの頭の中だけに残すことを許して。





今だけは、


君を見るたび夢を見る。




あたしだけの渋沢の夢。







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初悲恋。にしてこの惨敗っぷり。
すごいな。見事に意味がわからない。なんか自分でも驚きです。
渋沢は誰にでも優しいけど恋愛とかそういうのは鈍くて時に女の子を傷つけるタイプだと思います!!(どうでもいい)

ここまで読んでくださってありがとうございました!