人は誰でも人生のピークってもんが存在すると思う。





あたしは今高校時代にして








それを迎えたにちがいない。











だって今日から隣の席には








「・・・?」





王子様が座る事になるんだから。






ガタガタと自分の席と鞄を持ってあたしの隣に移動してきたのは学校の王子様、藤真健司だった。
ひっそりと想いを寄せるあたしにとって今だかつてない距離に心臓はうるさくなり続ける。



なんかもう逆に怖い
ラッキーとか幸せとか通り越して怖いぃいぃいいいいいーーーーー!!!!
あたし死ぬんじゃないの?すべての運を今この瞬間に使い果たして死ぬんじゃないの?
っていうかもう死んでんじゃないの?なんなの?息してる?
してる。
だってはあはあ言ってるもん。息苦しいもん。生きてるよ!!!アイワズボーン。
毎日毎日藤間君をこんな至近距離で見れるなんてありがたすぎる!!
神様ありがとう!かみさまありがとう!信じてないけど。

・・・・・・・・・・いや、でも逆に見れない!?
こんな近くじゃジロジロ見れない!?
えぇぇえーーーー!!ストーカーできないじゃん!!!
なんてあたしはアンラッキーなのぉぉおおぉおーーーー!?
ラッキーアンラッキー!!!あへあへあへ。

もうわかんない、自分でも意味分かんない。
あれだ、もはや嬉しいのか悲しいのかなんなのか、





もはや、あたしの冷静さはゼロだった。






そんな刹那。
















「・・・ニヤニヤすんなよ。気持ちわりぃな・・・・・」

















パードゥン?





隣からぼそっと聞こえてきた言葉に耳を疑った。
いやいやいや、藤真君はそんな言葉づかいしないよ?
藤真君じゃない。そんなわけない。
だって彼はバスケットの王子様なんだから。
私ったら、興奮のあまり脳みそが180度回転したんだ。
だから幻聴が・・・・








「オメェーだよ。お前。」






そういう藤真君をちらりと見てみれば、
あたしをしっかりと指さして睨んでいた。













その時から



あたしの中の何かが


音を立てて崩れていった。










「おい。」

「・・・・・・・・。」


聞こえない。



「おい!シカトしてんじゃねぇ!!聞こえてんだろ!?」



見えない。


「んのヤロ・・・」という小さいつぶやきが聞こえてからあたしの頭に鉄鎚が決められる。
あれ?仮にも女子ですけど。帰宅部だし。マンガみたいに次のコマで傷がなおったりしないんですよ?私は。
言いたい。でも言葉が出ないぐらいに痛い。
あたしは無言で隣の男を睨みつけた。





「聞こえてんならさっさと返事しろ。手間かけさすんじゃねーよ。」

「シカトしてんのわかってんならほっといてくれ。」

「俺に口応えすんな。」




何様なんだ。
ああ、藤真様か。王子様か!!


あの日から藤真へ対する「王子様」のイメージは見事にけしとんだ。
あたしが抱いていた藤真は幻想以外の何物でもなかったらしい。
現に言葉づかいは悪いしあたしをすぐ見下すし、意地悪するし。
不良だ。
さわやかな不良だよ。
まぁそんなもんなんだ。芸能人だってね、どんなに綺麗でかわいくったってうんこすんだよ。
それと一緒なんだ。
それでもさ。







「・・・・・・・・・・・これはないわぁ・・・・・・・・・・・・」





あたしは大きくため息をついた。




藤真が「あ?何が?」と、あたしのラインマーカーをくるくる回しながら眉をしかめる。



「なんか、ちょっと前まで藤真君かっこいい超王子様とか思ってた自分を呪い殺したい。いや、もはやグーで殴り殺したい。」

「俺が殴り殺してやろうか。」

「遠慮しときます。」

「だいたいそんなもんだろ?勝手に見た目で判断すんじゃねーよ。」



ごもっともです。
藤真の説得力あるその言葉をかみしめた。


「でもさ、なんつーかさ、違うよね?」

「何が」

「普通さ、思ってたよりワイルドだったとか、可愛かったとかクールだったとかそーゆーのはまだあるよ?あるけど」

「あるけど?」

「悪いところしか出てこないとか、これ完全に極悪人レベりゅ」


ルが出てくる前に頬を思い切りつねられてあたしは叫びだしそうになる口に歯止めをきかす。
授業中、藤真の悪意ある意地悪に何度叫びだし、何度先生に怒られたか。それはもう片手では量りきれない。
「だって藤真が!!」と言えば知らない女子から呼び出され、帰ってきてからは藤真にこっぴどく絞られてという恐ろしい悪循環。
最近はなれたけど。
あたしが必至に眼で訴えるとすっと藤真の手が頬から離れた。
あたしがつねられた頬をすりすりとさすっているとクスクス聞こえてくる笑い声。
ぎろりと睨めば藤真の可愛い、でも綺麗な笑顔があって


心臓が跳ね上がる。


やっぱかっこいいなぁくそぅ・・・



その整った顔は反則だよ。



ふいと逆方向をむいた。
何度も言うけれど、隣の席になってから今までのあたしが作り上げてきた藤真はいなくなってしまった。
代わりに現れた藤真健司は悪魔のような男で。
でも、それでもあたしは、この男をまだ気にかけていて。
それはあれだ。顔がかっこいいからとかきっとそういう理由なんだと言い聞かせる。

この手のタイプをあたしは本気で好きにならない。
こういう男はあれだ、可愛い女の子と恋に落ちるのがセオリーなんだ。
だから、絶対これ以上にはならないように距離をとる。
それが一番いいから。
一人黙って中のあたしがうなずいた。






「なぁ。」

「うお、何。」

不意に問いかけられて、一気に脳内にいた自分が現実に引き戻される。
横に視線を移すと藤真が頬杖をついてこちらを見ていた。




「今は。」

「はぁ?」

「今はどう思ってんの?俺のこと。」




少し低い声のトーン。
何かを見据えた目は、その空間にピリピリとした緊張感をもたらす。
これはふざけて返す空気じゃないというのは馬鹿なあたしにだってわかる。





「別に。普通に好きだよ。一般男子って感じ。」



普通に好き


という言葉に眉をしかめる藤真。



「普通にって、何。」

「え?いや、だから今まで王子様〜って感じがただのクラスメイトになたって感じ。別にバスケに打ち込む姿勢以外は普通の人だったなって思った。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・なんすかその顔。」

「そんなこと初めて言われた。」

「へぇ、そう。」

「それっていいの?悪りぃーの?」

「えー・・・わかんない。」



あたしの曖昧な返事にさらに藤真の眉間のしわが深くなる。

おお怖っ。
これ以上かかわりたくねぇ!!めんどくせぇえ!!!
そう思ったあたしは全く読み込んでいない教科書に視線を落とした。




とたんに鳴り響く授業終了のチャイム。


ああ、なんでこうもタイミングが悪いかな。
ばつの悪い顔をしていると、やっぱり藤真があたしの机の横まで来る。
隣の席なんだから立ち上がることないのに。
きっとあたしが逃げ出さないようにするためなんだろうな
なんて頭の片隅で思いながらおそるおそる藤真を見上げた。





「おい、コラどっちだよ。」

「えぇ!?っち・・・しつけぇ・・・・・・」

「俺は白黒はっきりつけなきゃ気がすまねぇーんだよ」

「良いんじゃない?親近感わく王子様〜庶民派王子様ぁだだだだだだ」



作詞作曲あたしの庶民派王子を止めたのは藤真の指先で。
さっきとは反対側の頬を抓るのはせめてもの優しさなんでしょうか?



「お前なー・・・・・」

「いひゃいよふじみゃ。おぉーーーいガネメーーガネメェーー!!」

「花形ー別に呼んでねぇー」



あたしを見たまま言う。
いやいやいや、呼んでます。私呼んでます。
それでも花形は来なかった。
そろそろ親衛隊の視線が痛くなってきた。
ほっぺも痛いけど。
そしていつものことだけど。







「おい。」





真剣な藤真の眼にあたしは息をのんだ。



ゆっくり頬から離された手が裏返って手の甲がそっとつねっていた場所をなでる。










「近々お前のその口から、「今の藤真がめっちゃ好き。付き合ってください。」って言わせてやるからな。」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?










「覚えとけよ。」






そう言ってあたしの頬から離した自分の手の甲にそっとキスを落とす。

そんなキザなことをやって許される人間がこの次元に存在したのか。


様になりすぎていてびっくりした。


それでももっと驚いたのは藤真の言葉。



それは、いったいどういう意味ですか?

わかっているようでわからない。
というかそれを受け入れられないでいる自分。




さっきまで触れられていた頬が熱を持つ。
名残惜しさが残る。







うわ



どうしよう




もう既に



めっちゃ好きです















----------------------------------------------------------------------------------------------------
あれ?藤真君って・・・・誰・・・・・・
書きたい気持ちばっかり先走りました。すんまそん。



ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!