なんてこったい・・・・。





あと5分。







どーすんのこれ。







あと3分。








これ絶対間に合わないよね。ヤバイよね。オダギリジョーみたいにポケットからサッとカード出ろ。






あと2分。










ブブブブブブブブブブブブブブブ



「ひゃぁう!!!!」


あたふたしているあたしに追い撃ちをかけるかのように机の上で携帯のバイブがうるさく響いた。
恐る恐るディスプレイを覗き込めばそこには今1番表示されてほしくない文字。
あたしは一呼吸置いて電話にでた。





「も、もし、もしー?」

『もしもしー?今ついたよー。』

「そ、そうかな?まだついてないんじゃない?表札間違えてない?それホントにあたしんち?」

『何回来たと思ってんだよー!さすがに覚えたって!間違いないよ。ん家。』

「そ・・・そっか・・・そうだよね。うん。わかった、今鍵あけるね・・・・。」


あたしは携帯をもったまま玄関先へと向かう。
足取りは重かった。
冷たい床はあたしの足先から体温を奪う。
頭の中は言い訳の言葉でいっぱいになっていて、
ゆっくりとドアを開ければ
本当は見たかったはずの笑顔がにこっとあたしを待っていてくれた。





「おーっす!」

「う、うん、いらっしゃい・・・あ、あがって・・・?」

良郎は小さな声で「お邪魔します」といいながら頭を下げた。
玄関で靴を脱いだ後にきちんと向きを変えて綺麗にそろえる。
毎度毎度関心しているのだけど今日はそれどころじゃない。



「いやークリスマスに二人っきりで・・・しかもん家でパーティーできるとは思わなかった!!」

「う、うん・・・あたしもだよ・・・。」

「なんかご両親いないのに申し訳ないな。」

「き、気にしないで・・・いいよ・・・・。」

「あ!そうそう!!駅前でちゃーんとケーキ買ってきたぜ!!」


そういって良郎はあたしにビニール袋を見せてくれた。



う、うわぁ・・・・どうしようこれ、どうすればいいこれ。
絶対切り出せないよ。どーすんのこれ。






あたしはごちゃごちゃになっている頭を抱えながらも冷静を装い良郎を居間へと案内する。





せっかくのクリスマス。


好都合なことに誰もいないあたしの家で、

良郎と二人っきりですごせる日。



家で二人っきりとか、めったにないから。

そんでもってクリスマスだし。



あたし達は約束をした。



良郎がケーキを用意して


あたしが料理をもてなす。




そう、そのはずだったんだけどね。
ちょ・・・・うん。
5時半に、あたしの家集合だったのね。
だから、あたしはそれまでには料理を完成させていなければいけなかったのね。
それをね。あたしはね。








5時15分まで寝てたっていうね。











ぉおぉぉおおおーーーーーーーーーーーい!!!!


バカバカバカバカ!!!
料理の準備してる時点で電話がかかってきちゃってだめじゃないのぉおーーーーーー!!!
だってうとうとしちゃったんだもん。
まだ時間あるし・・・みたいな気持ちで転寝しちゃったら思ってた以上に寝ちゃうってことあるじゃん!?
あるよね!?
でもさすがに今日はだめだろあたし!!!なにのんきにしてんだあたし!!!
あああああああああ・・・・・どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・・・・・・











?」

「っぇえ!?」

「今日俺朝からなんも食わないできたんだぁ〜の手料理なんてはじめてだし超楽しみ!!」






よけいなことをぉおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!
プレッシャーかけやがって!!!!
このやさおが!!!かわいい顔でわらってんじゃねぇー!!
税悪感でいっぱいになっちまったじゃないのさぁあーーーー!!!!!!!!

人の気も知らないで・・・・・・

まぁ全部あたしがいけないんだけどさ。
つーかホントあたしがいけないんだけどさ。
ホントにホントに
いけないんだけど。
・・・・いけないんだよ。全部あたしが。








「・・・・?」





返答がないからか、心配そうに良郎がそばに来る。
あたしはキッチンの前で立ったまま俯いた。













「ごめん。」







「・・・・・え・・・・」








「ごめん良郎!!!」




ただ謝ることしか出来ないあたしに驚いて良郎が一オクターブぐらい高い声で「ぇえ!?」っと言った。



「・・・・え?ちょ、・・・・待って、急になに??」


あたしの肩をぎゅっと掴んで良郎が驚きと不安が混じったように言う。
それでもあたしは良郎の目を見ることは出来なかった。



「・・・実は・・・料理まだ・・・出来てない・・・つかなんもしてないの・・・・。」



自然となみだが頬を伝う。
自分が情けなさすぎて、悔しくて、
普段から良郎はあたしのために色々用意してくれたり、プレゼントしてくれたり、
いたせりつくせりのさ、優しい彼氏なのに、

あたしは何にも返せない。
こんな大切な日にまで好きな人を、
大切な人を幻滅させる。


大好きなのに


感謝してるのに



あらわせなかったら意味無いじゃん






「え・・・・・・・・・」





息の抜けるような音、それは声とは言いがたい。
あたしの肩を掴む良郎の手から力が抜けていくのがわかった。



「ホントにごめん!!!!!」




それしかいえない。
謝ることしか出来ないよ。
こんな女でごめん。
こんなあたしでごめん。


涙は重力に逆らうことなくフローリングに落ちていく。
ぽたり
ぽたり

フローリングの床は涙を吸収することなくためていく。


ぽたり

ぽたり



ああ、バカだなあたし


これで愛想つかされたってしょうがないじゃん。


でも良郎が好きで好きで大好きで

ホントにホントに感謝してるんだよ?




「ご、め・・・・んな・・・さ、い・・・・」



擦り切れそうな喉から無理やり声を絞り出したとき。






「んだよ〜そんなことかよ〜!!!」




ため息交じりのホッとしたような良郎の声とともに暖かい彼の胸板にぐっと顔を押し付けられていた。



「ぇ・・・・」


それに気がついたときには良郎の力強い両腕があたしの背中に回っていてしっかりと抱きしめられていて。
身動きすらも取れない状態。




「いいよ別に。つーか寝てたでしょ?」

「う・・・・うん・・・・ってぇえ!?なんでわかるの!?」

「だってほら右の頬、」



一瞬体を離されて、そっと頬をなでられる。
良郎の暖かくてすっとした指が頬に触れた瞬間、トクンと胸がなる。




「ねあとついてる。」


「・・・・・・・・・・・え、マジ!?」

「うん。」

「ご、ごめん・・・・!!」

「別にいいって!!気にすんなよ。らしいし。」

「あ、あたしらしいて!ひ、ひどい・・・本気で反省したのに・・・・・」

「いや、本気で反省するのは当たり前。」

「う・・・お、おっしゃるとおりです・・・・」

「まーそれはあとにしても・・・がまさか泣くとはねぇ〜」


「びっくりしたよ」とクスクス笑いながら良郎が言った。


「だって・・・良郎に愛想つかされるかなって・・・・お、思ったんだもん。」

「バカ。んなことで嫌いになるわけないでしょ。俺はってっきり・・・・」

「・・・ってきり?」




頭を軽く上げると、それを押さえ込むようにして良郎があたしの頭をぐっと胸に押し付ける。







「・・・・てっきり別れようとか言われんのかと思った・・・・」







誰もいない部屋の中で、良郎の声が少しだけ震えていた。





「・・・・・・・・はい?」



「っ!!だから!別れ話されるのかと思ったの!!」

「・・・・よ、よしろう・・・・?」

「クリスマスにふられるとかしゃれになんねーし・・・・」

「んなわけないじゃん!!」

「そんなのわかんねーだろ!!俺、彼女・・・は、初めてだし・・・・。」

「あたしだって初めてだよ!!」

「もしかしたらもっとちゃんとデートとか出来る男の方がいいのかなとか・・・色々考えるじゃん!!」

「なっあたしは別にお家デート好きだしDVD見るのも好きだし良郎が好きだし!!バカ!!」





「・・・・っ!別れるわけ無いじゃん!!」


「ちょ、!せっかく泣き止んだのに!また泣くなよ!!」

「うっさい!誰が泣かしたんですかバカはまだ!!」

「あーもー悪かったってば!だから泣くなっつーの!!」




途中ではじめはどっちが悪かったんだよって思ったけど、

ここは黙って抱きしめられておこう、あたしはもう謝ったし。


そう思ってぎゅっと良郎にしがみついたら良郎も抱きしめなおして、さっきよりも強くぎゅっとしてくれた。





その後は、


「料理なんて二人で今から作ればいいじゃん!せっかくのクリスマスだぜ?」

「しかも二りっきり!」






と笑顔で言ってくれた良郎の言葉に素直に従うことにした。

その後良郎が「なんか新婚さんみてぇ・・・」とつぶやいたけど

照れたので聞こえない振りをして鍋をかき混ぜていた。



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浜田編。

しねぇえーえーー!!!!
しねぇええええ!!!!
私なんてしねぇえーーーーー!!!!


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。