クリスマス。



街はネオンに彩られ
すれ違う人達はどこかみんな幸せそう。


あたしと慎吾も普段とは少し違う街に胸を踊らせずにはいられなかった。




「うわーうひゃーうっわーー!クリスマスだよ慎吾!!」

「はいはい。わかったよ。」



訂正。



あたしが一方的に心踊ってる。




慎吾はいつも通りのすかし顔であたしの隣を歩いている。

なんか少し悔しい。

あたしは生まれてはじめて彼氏と過ごすクリスマスだから

特別中の特別な日で


嬉しくて嬉しくて嬉しくて




落ち着いてなんていられない。





だけど慎吾は違うんだよね。
あたしなんかとちがってモテるし忙しいし。
ちょっと、大人の余裕を見せられた気分だったりする。




「・・・・どした?」

「・・・別に。」



チラリと見えた横顔がかっこよくて悔しい気持ちは半減してたりする。こーゆーときあたしって単純だなぁって思う。








「・・・・・っ!」

「ぉわっ!し、慎吾?」



慎吾が急に立ち止まった。
というか立ち止まった時に繋いでた手も一緒に後ろに引っ張られてバランスを崩
しそうになる。



どうしたの?

あたしがそう言おうとした時、それよりも数コンマ早く前から綺麗な声がした。


「慎吾・・・・!!」

「・・・ぉう。久しぶり。」


その綺麗な声の持ち主はシンプルな黒の長いコートに身を包んだか細い女の子。
長い髪はキャラメルみたいな色をしていた。


どっからどーみても



めちゃめちゃかわいい。





「彼女?」

「あ?まーな。」

「ふーん。かわいいじゃん。」

「だろ?お前は?一人?」

「いや。彼氏まち。」

「だと思った。」

「やっぱりね。ホント慎吾ってあたしの事なんでもわかっちゃうんだね。」










二人の会話があたしの胸にぐさぐさささる。



別にヤキモチっていうかそういうのより、なんだか痛い。

慎吾はあたしと違ってもてるし女子に囲まれるのなんてしょっちゅうだけど


この人は違う。



だって、この人は






「さすがあたしの元彼じゃん。」








元慎吾の恋人。






「それじゃあたし行くから。」

そういって軽く手をふって、あたしにも会釈してくれた。
あたしも黙って小さく頭を下げる。



その間にもあたしの頭の中は落ち着いてはいられなかった。
あの人も去年のクリスマスは慎吾とこうやって街を歩いたのかな?
よりそって二人で笑ってケーキ食べたり、そのあとは・・・・・
あの人はきっと慎吾と並んで歩いても周りの目なんてちっともきにならないんだろうな・・・・。
それに比べてあたしってなに?
なんであたしみたいなのが慎吾と一緒にクリスマスすごしてんの?
そういう目で見られてるみたいで、はじめは街を歩くのだっていやだった。
嬉しいんだけど、どこかいやで、心は一人みたいに思ってて、
でも慎吾が「俺はと一緒で恥ずかしいだなんて思ったことねーよ」って怒って、それでまた慎吾がもっと好きになって・・・・・・


さっきの慎吾はどこか寂しそうに見えて、

あの人としゃべってる慎吾は
どこか嬉しそうに見えて、


あの人の背中を見つめる慎吾はどこか切なそうに見えて、




あたしなんて、

かないっこないって思った。

そんなあたしはもうすでに負けなのかな。






「・・・・・・・・・・・?」

「ぇえ!?」

「どした?」

「えへへへーーなんでもないよーん!さ、早くケーキ買って家戻ろう!!寒い!!」

「・・・・ああ。」







そう、今日はあたしの家で初めて二人っきりで過ごす日でもある。
今までは家の誰かがいたけど今日は都合よく誰もいなかったりする。
だからあたしの家で過ごすことに決めていた。



もう一度手を握りなおしてあたしが少し先を歩く。




慎吾の手をひっぱるように。



それは


こんな顔を慎吾に見られたくないから。

きっと心配する。

だから落ち着くまではちょっと先を歩こう。












「・・・・・・・・・・・」














少し日は落ちて、さっきよりも肌寒く感じる。
手には買い物袋をぶら下げて(ちなみに慎吾の手には四角い箱)あたし達は住宅街までやってきた。





「今日はパーティーだよ!!チキン!チキン!!」

「はいはい。わかったわかった」

「早く家はいろ!!」

「なんかいつもお邪魔してばっかで悪いな。」

「大丈夫だって!!」



そういいながらあたしは鍵を開けて玄関を開ける。

「あ、ごめん鍵しめてね。」

「あいよー」


ガチャリと冷たい音がして、
家には本当にあたしと慎吾の二人っきり。

そんな事を考えたら嬉しくなった。



だけどやっぱりどこかもやもやするのは、


さっきの元カノのせいだとおもう。




でも誰が悪いわけじゃない。

しいて言うならあたしが悪いのかな・・・・・・

気にしたってしょうがないことなのに。




そう思っていたとき、



ふわっと感じたぬくもりと香り。







あたしは慎吾に後ろから抱きしめられていた。






「ど、どーしたの?ここ玄関だし・・・寒いし、な、中はいろう?」


?」


「え、な、何??」


後ろからボスっと肩に重みが加わり慎吾のやわらかい髪があたしのうなじを掠めた。





「・・・・・・・・かわいい。」






「はい?」










いきなりなんでしょ、この人は。
普段は素直じゃないだのアホだのバカだの少年だの言ってくるのに・・・・
慎吾もクリスマスムードに浮かれているんだろうか?
いやでも慎吾がこんないきなり浮かれるとか無いだろうし・・・・・・・・
ホントに何々?




「慎吾〜?どしたの??」


首だけをきょろきょろと後ろに回そうすると、

慎吾の腕にさっきよりも少し強い力で抱きしめられる。






「妬いただろ?」













「っ!!!!!」



あたしの体が一気に強ばる。




「っくっくっくっく・・・・」



慎吾が喉で笑った。
慎吾は人を小ばかにするときによくこうやって笑う。
だから余計に悔しくなった。



「もーーー!!ちょ、笑わないでよ!そりゃ、誰だって・・・思うでしょ・・・・めちゃかわいかったし・・・・」



「だねぇ〜」


「それにいい子、そう、だったし・・・・」


「まぁー悪か無かったな。」


「それに比べて、あたしは・・・・・・」


は?」


「か、かわいくないし、頭も、そんなよくないし、性格も、特別いいわけじゃないし・・・・」




やばい、

自分で言っててちょっと泣けてきた。


ホントあたしっていいとこないな、おい。


せっかくの、クリスマスなのに。

楽しく過ごそうって思ってたのに。


こんなこと今日は、考えないって決めてたのに・・・・・


やっぱりあたしってだめだなぁ・・・・


きっと今俯いたら涙がこぼれる、そう思ったから。

あたしは下唇を軽くかんで少し上を向いた。




ふいと慎吾の手があたしの体から離れた。


でもその手はすぐにあたしの片手をひっぱって正面を向かせる。
突然の事でされるがままのあたしは正面を向かされてすぐ慎吾の唇に自分の唇をふさがれて、
その後は、驚く間もなく慎吾の腕の中。
ギュッと胸板に顔を押し付けられて、あたしを力強く抱きしめる。













「そんなコト考えちゃうが俺はめっちゃくちゃかわいくて仕方ないしスゲー好きなんだけど?」











玄関は外よりも寒いんじゃないかと思わせるぐらい冷えていた。


だけど、






「前は前、今は今。俺はが好きだよ。」






今はなんだかすごくあったかい。








あたしは黙って頷いた。
慎吾の背中にぎゅっと手をまわして、顔を深くうずめる。


おかしいな。


さっきまですごくやな気持ちで、一人で寂しくて、つまんなくって、
自分なんかって思ってたはずなのに。



今はもう








「・・・・・、わかった?」

慎吾があたしの頭をなでながら言った。


「・・・・・うん。」


今度は声に出してあたしも言う。



「信じてる?」

「・・・・しんじてるよ?」








慎吾がすきって気持ちがあって







「・・・・嘘付け。なんか信じてない気がする。」








慎吾がそばにいてくれて







「いや信じてるってっば!」

「・・・いや、信じてねーな?これは体に教えねーとなぁ・・・・」








それでいいって思える。





これ以上の幸せはないよね。





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慎吾編。
すいまっせーーーん。もうなんかアレです。旅にでます。


ここまでよんでくださって本当にありがとうございました!!