眠たくて眠たくて眠たくて


数えたつもりもないのに羊が柵を越えていく。



ああ、私はめーめーさんにそんなお願いしてないよ。

今寝ちゃだめ。
だめだよ私。




そんな


ああ





だめだよ













































「いやー面白かったね!」

「そ、そうですね・・・・・・・・」





にっこり笑顔の神君が、あたしの正面でコーヒーを一口すする。
そんな些細な姿までもがかっこいい彼を横目にあたしは脂汗がとまらなかった。







だいたいなんであたしと神君がこんなカフェ的なところでお茶してるの?
なんで映画館きてたの?



それはさかのぼることおとついの話。







「あ、」

「え?」




あたしがペラペラとめくっていた雑誌に気がついて、
おんなじクラスのイケメンクンが正面に座った。


「この映画、今やってるやつだよね?」


「ああ、うん、そうみたい、だね。」


ぎこちない返答。


だってあたし神君と全然しゃべったことないもん。







クラスでもひとひは目立つ彼。

顔はもちろんかっこよくって、
バスケ部でレギュラーで、
そんでもって優しくて、
勉強もできる





そんな彼と私のような一般ピーポーが友人なわけがない。
自分で言ってて悲しいけど、
あたしはどこぞの少女漫画の主人公なわけでもないんだから、当たり前だと思う。


















「興味あるんだったらあげるよ?このページ。」





あたしはないから。
っていうかこの雑誌あたしのじゃないし。
(ごめんね、。)



なんだか気まずくて、早く目の前からどいてほしくて、
大げさだけど・・・・・平穏な日々を破壊されたような気がして

あたしは雑誌をさしだした。





彼はぶんぶんと細い首を横に振る。



「いやいやいや、いいよ、悪いし。」

「そう?全然大丈夫だけど・・・・」



だってあたしのじゃないし。





「・・・・さんさっきからじーっと見てたみたいだけど・・・・」

「えっ」



どうしよう
全然そんなつもりなかったんですけど



とは思いつつも






「あー、うん、面白そうだなって思ってさー」




なんて平気で話をあわせてしまうあたし。
空気読んだら、言えないよ。







「・・・・・日曜日っていつも何してるの?」




「え、日曜日?」



「うん」



彼の唐突な質問に一瞬ひるむ





笑顔の威圧が尋常じゃなくて





「大体家でごろごろしているかな!」なんてあわてて答えた。









それが




まさか






















「じゃあ、あさっての日曜日は俺に時間ちょうだいよ」





























こんなholidayに導かれることになるなんて





予想外でーす★





















つまり


あたしは結局その時、縦にうなずくことしかできなくて
神君と赤外線通信をして
メールを返信して









この状態になったわけだ。























あまりの衝撃と驚きで





土曜日からどぎまぎして眠れなかった。












だってあの神君だよ?あたし。







神君と二人で映画って












そんなの人生でもう最後の体験だよ。
つーか死ぬんじゃないのあたし。















ずーっと緊張していたのもあって
薄暗い映画館の中で
ぷっつりと糸がきれてしまったあたしは



映画を最後まで見終えることなく



夢の中へといざなわれた。

























正直まだ夢なんじゃないかと思う。






ぼんやりと
紅茶に映る自分を見ていた。



























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さん」


「・・・・・・・・・・えっ、あ、なに?」







いけないいけない、
全然話聞いてなかったよ。




はっと思って、彼の方に視線を移すと
いつもよりも眉毛をハの字にした神君が申し訳なさそうにあたしを見ていた。
















「今日はごめんね」











思ってもいなかった
彼からの謝罪の言葉に驚いた。




なんで神君が謝るの?
あたしそんなつまんなそうにしてたのかな、
ヤバイどうしよう
そんなつもりじゃないのに
今までの自分の行動を振り返るとただの言い訳にしかならなくて
あたしは口ごもってしまう。












「ホントはただの口実だったんだ」

「へ?」



テーブルの上でそっと手を組む神君。
指一本一本からも気品と色気が漂ってくる。










「どうしてもさんに声を掛けたくて、」













「俺を知ってほしくて、」














さんを知りたくて」






















「無理やりにきっかけ作った。でも、ちょっと強引すぎたかなって、今では反省してる」

























「ごめんね、」と笑う君があんまりにもきれいで





あたしは口をあんぐりと開けたまま
言葉をはっすることができない。









どうしよう















「じじじじじじじじじじじんくん・・・・・・・・・・・」












どうしよう





「そ、それって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」















どうしよう
















「・・・・・・・・・・・・・あたしは・・・・・・・・・・・・」

























「どう・・・・・・・・・・・・したら・・・・・・・・・・・いいんですか・・・・・・・・・・」












硬直した体を
必死に脳が動かそうとする。
片言の言葉が





あたしの言葉の意味が




こんなんで彼に届くのだろうか







少し不安だったけど




神君はしばらく目を見開いていたあと



クスリと笑った。





「うん。俺をもっともっと知って?」




あたしはガクンと首を縦に振る。



「そんでもっともっとさんを俺に教えて?」


ガクン



「その次はわかるよね?」
































カランと角砂糖をコーヒーに溶かして神君は目を伏せる。


















「今度は俺を好きになってくれたら、すごく幸せ。」



















ずるい




かっこいい





そんなこと言われたら









「神君の馬鹿」

「え?」

「かっこよすぎて、早くも落ちそうになったじゃないか」









「それはそれで嬉しいから構わないけど・・・・・・・」









クスクス笑う神君を直視できない。









「そのあとは絶対放さないから、慎重に考えてね?」











キザな台詞が
こそばゆい。







「くま、」

「え?熊?」

「違うよ、ここ。」



すっとあたしの眼の下を、細長い、でもごっつりとした指がなぞった。






「俺と会うのが楽しみで、眠れなかった、」


「っ!!!」



「とか期待しちゃうかもね」









「これは少しやりすぎだよね、ごめん」と言って笑う彼は
さまになりすぎていて怖くて
こんなにも簡単に人を好きになりそうな自分が怖くて



この先あたしたちがどうなってしまうのかはまだよくわからないけど




このデートが最初で最後になることはないような気がして










両手で熱くなった頬を抑えながら



あたしは落ちていった。




















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無駄に長い。
っていうか神君こんなんじゃない。
っていうかヒロインがウブ。
私むきじゃないかなとか(自分で書いておいて)



ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!