中学校生活最後の冬休み。


私は、とある家にいた。


そこの住人は寒いと言ったら珍しく腕を広げ私を向かいいれてくれた。


それで私をギュッて抱きしめてくれた。


それは今から10分ほど前の出来事で今も私は抱きしめられている。


この相手が仮に、本当に仮に、小栗旬だったらきっと誰もが羨ましがる事だろう



でも現実は阿部隆也だ。

そう考えるとキモい。


隆也が嫌いというわけではない。

むしろ大好きだ。


でも彼の日頃の素振りを見ている私からするとこの行為は非常にキモいのである



てか私たち中学生の分際で抱きあうなんて、ませてる?


いやいや、今はそんな事が問題ではない!


なぜ小栗旬ではないのかという問題だ。


あーマジなんで小栗旬じゃないんだ!


キモいキモいキモいキモいキモい!!


「…なんか言ったか?」


「…なにも」


さすがに、キモいと思っていても本人にこんなこと言ったら一生抱きしめてくれ
なくなりそうなので胸に留めておく。


それにしても心の内が聞こえたかのように良いタイミングで話しかけてくるなぁ



しかし、こいつはいつまで抱きしめているのだろうか。


外にいるわけでも学校にいるわけでもないがいい加減離してくれないだろうか。


いくらここが隆也の部屋だといってもいつ誰が入ってくるかわからないのに。


「隆也ーそろそろ離してくれないかな?」


さすがに痺れをきらして声をかけてみた。


しかし微動だにしない。


返事もない。


人の質問に答えないなんて何様のつもりだ?


「おーい隆也ー?聞こえてますかー??」


阿部の後ろに回していた手でバシバシと背中をぶつ。


「いってなー」


「いってなーじゃないよ。呼ばれたら返事しろし」


「うるせー女」


「めんどくせー男」


口論しながら先ほどの仕返しといわんばかりに、私の背中を叩く。


「暴力反対ー」


その暴力から逃げようと阿部を押しのけようとするがビクともしない。


無駄に鍛えてないだけあるな。


からぶってきたんだろうが」


「何その小学生思考は?何歳よ?」


「15」


「餓鬼ー」


「お前も同い年だろ」


こんなに近い距離にいることもあって溜息がよく聞こえた。


ただ抱き合ってるだけなのに
ただいつものように隆也が溜息をしただけなのに
すごくドキドキした。


でもドキドキしてるのは私だけではないみたいだ。


だって隆也の心臓が私と同じように鳴ってる。


なんでドキドキしてるのかな?
なんて乙女みたいな事考えて一人で笑ってしまった。


「キモっ」


「お前に言われたくないっていうの!」


「女がお前って言うなよ」


「男尊女卑だー」


「…高校行くまでに言葉使い直せよ」


「無理でーす。」


「俺、武蔵には通わねぇから」


心が疼いた気がした。


なんでこんなタイミングで言うのさ。


バカバカ。


…やっぱり阿部は1人で西浦に行っちゃうんだね。


腕の力が抜けて宙ぶらりになってる。


私たちの心臓の音と時計の音しか聞こえなかった。


頭がグルグル回ってる。



ねぇ、一緒にいたいよ。



背中に回していた腕をギュッと強く抱きしめた。


そしたら隆也も強く抱きしめ返してくれた。


このまま、ずっとこのまま抱き合えていれたら幸せだろうね。


「行かないでよ」


面倒な女だと思われるのが嫌で言わなかった言葉を絞り出してみた。

否、口からこぼれた。


「…いきなりなんだよ」


聞こえなかったらいいな、なんて思ってたけどしっかり隆也の耳に入っていた。


「榛名さんもいる武蔵に一緒に行こうよ」


「ごめん」


本当はこんなこと言いたくない。


でも口は止まらなかった。


「高校も一緒に過ごしたい。毎日学校であっておはようって挨拶したい。部活が
終わったら一緒に帰ったりしてさ買い物とか…」
「ごめん」


痛いと感じるほど更に強く抱きしめられた。


だから私も力の限り抱きしめ返した。


目の奥が熱かった。


我儘だってわかってるよ。


高校が違くなっても別れるわけじゃないってこともわかってる。


でも一緒の高校に通いたかった。


それに私のせいで隆也の夢を壊したくなかった。


だから何も言わず隆也の胸で泣いた。















ゴーン―……
ゴーン―……


「…鳴ったな」


「え?」


「除夜の鐘」


スッカリ忘れていた。

今日は12月31日だった。


一緒に初詣に行こうと思って隆也の家に来ていたんだった。


「さてと…体も温まったことだし初詣にでも行きますか」


「あー!私の事、人間カイロにしてたなぁ!」


も温まっただろ?」


「まぁね」


大丈夫。


今、私は泣いていない。


隆也の目が赤かったから私は笑った。


それに気付いた隆也も私の目を見て笑った。





「ん?」


「寒くなったらいつでも温めてあげるからな」


「鳥肌たった」


やっと離れたと思ったのに私たちは笑いながら手を繋いで近くに神社に向かった






神様にも祈ろう。


来年も2人で初詣できるように。