「ねーお願いだよぉー」

「無理。」

「そこをなんとか!三上君頼みますよー!!」

「やなもんはやだ。」

「かわいい浴衣姿たくさん見れるよ?」

「乱れた浴衣以外興味ねー。」

「・・・・変態。」

「変態で結構。とりあえず俺はいかねーから。」

「ちっ・・・もーいいよ馬鹿三上。タレメ。変人ホモサピエンス。」

「へーへー」







せっかくの夏祭りの日。
あたしは昼間から頬を膨らませ眉にシワを寄せていた。
不機嫌。

その原因は目の前で涼しい顔してかちかちとマウスをせわしなく動かす男にあった。


三上の背中をちらりと横目で見てからあたしは大きなため息をつく。





予定外だ。


三上がこんなにも強情だなんて。



ホントは二人で夏祭りに行って、
浴衣姿を披露して、
たこ焼きを食べて、
お好み焼きを食べて、
焼きそばを食べて、
ソースせんべいを食べて、
あんず飴を食べて、
かき氷を食べて、


って食べ過ぎだろ。


違う!
ホントは、
あたしはこの日、
このアホみたいなパソコンラブ男に
告白するつもりでいた。
だから気合入れて浴衣買って、
友達にもたくさん相談に乗ってもらって
何度も告白の練習をして
あとは三上を外に連れ出すだけだったのに。




色々してきたのに


なのに!!
なのになのになのになのにぃいいいいいいーーーーーーーーー!!!!!!!!!
このたれ目変態ホモサピエンスときたら!!!



「はぁ?夏祭り?行くわけねーだろ、このくそあちぃーなか。」




これだから現代の子供はぁああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!




パソコンをカチカチといじる三上の後ろであたしはぎりぎりと拳を握りしめていた。
ムカつくムカつくムカつくムカつく!!!
きぃーーー!!!!
なんなんですか。
祭りって言ったら
「え、マジマジ!?超楽しみなんですけど!マジテンションマックスで打ち上げ花火級なんですけどー」って話だろ。
なのになんでこの中3はこんなにも冷めているんだ。




「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・んだよ、睨んでんじゃねーよ。」

「・・・・渋沢ー」

「三上、夏祭りぐらい言ってやれ。がさっきから凄い目で俺を見てくる。」


苦笑しながらも渋沢が愛の手を差し伸べる。
ナイス!ナイス守護神!!
キャプテンのいうことだ!
絶対なんだぜ!!
さあ三上よ!折れろ!!諦めて私に告白されろぉおおおーー!!!

もう勝利は手の中!なんて思っていたのに、
ゆっくりと振り返った三上は



さっきよりも不機嫌そうにあたしを見て一言。





「あー渋沢までなんなんだよ。いかねーったらいかねーんだよ。諦めろハゲ。」



ああ、やっぱり?



「・・・・・・・。」

「・・・おい、三上・・・」

「いいよ渋沢。」

・・・。」




渋沢には心配はかけまいとにっこりと笑ってみせる。
それも逆効果だったらしく、渋沢はよけいに苦い顔であたしを見た。


「いいよぉーーっだ!馬鹿三上!引きこもり三上!!あたしはと渋沢と藤代達と楽しく夏まつりに行きますからぁーー!!!」

「へっ、いーじゃねーか、好きにしろ。」

「あたしたちが羨ましくなって一緒にかき氷食べた後のベロ見せ合いたいって言い出したって仲間に入れてあげないかんね!!!」

「そんなアホなことしたくなんねーよ!!馬鹿。」





「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!!バァアアーーーッカ!!!!」




そう叫んであたしは部屋を出た。


悔しい。
寂しい。
悲しい。

全部だ。
もう全部の感情があたしの心で爆発する。







「・・・・?ほんとにいいの?」


が心配そうにあたしを見ながらもキュっとあたしの浴衣の帯を締める。
その言葉に一瞬チクリと胸が痛んだもののあたしの顔は心とま逆にニッコリと笑う。

「もちろん!!みんなと夏まつりでもそれはそれで楽しいし!!協力してくれたみんなには悪いけど・・・・」

「それは大丈夫だけど・・・が・・・」

「あたしはいいよ!!全然!!だから楽しもう?」

「・・・うん。」





そうだよ。
せっかくの夏祭りなんだから。
告白はできないけど、
それはそれで楽しまなきゃね。



寮の外に出てみれば、夜の涼しい風が頬なでる。
入口のところでは藤代と笠井が待っていた。
あたし達の姿に気がつくと、藤代が手を振りながら走ってくる。


先輩!!先輩!!!」

「おーう犬!!元気だな!」

「待たせてごめんね。着付け時間かかっちゃって。」

「すっげーかわいいですよ!!先輩!!」

「おいコラ、馬鹿犬。あたしは?あたしはどうした。眼中にないんか。」

「まぁまぁ先輩。先輩は一番言ってもらいたい人いるんだからいいじゃないですか。」


笠井があたしをなだめるように優しく笑った。


「・・・・まぁ今日はこないんだけどね。」


苦笑いすると、笠井と藤代はきょとんとした顔であたしを見た。



「あ、そう!そういえば渋沢は?」

が素早く話を切り替える。
その優しさに胸が痛んだ。


「あ、キャプテンはあとから合流するって連絡ありました。だからとりあえず4人で楽しんでてくれって。」

「そっか!!んじゃ行きますか。」



あたし達は人の集まる神社へとふらふら歩きだす。
クラスメイトにたくさんすれ違って
たくさん笑って
途中で藤代の買ったたこ焼きをとって食べたり、
藤代があたしのかき氷を食べたり、
それをみてが大爆笑したり、
笠井があきれた顔で見てたり。

楽しい、


だけど何か足りない。




足りないものは




考えるまでもない。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤代?」



はっと気付いた時だった。


さっきまで横で一緒に水ヨーヨーをみていた藤代がいない。
あたりを見回してみると、後ろをお母さんみたいに歩いてたも、
年下なのにお兄ちゃんみたいな笠井もいない。
気付かないうちにあたしはみんなとはぐれていた。


きょろきょろしながら、人ごみをかき分けるように歩く。
はきなれない下駄のせいで足がひどく傷んだ。
じんじんする。
どこかに座って休もう。

そう思ってちょうどいい石段に腰をかけた。







周りを見渡せばこんなにたくさんの人たちが笑ってる。
楽しそうに。
なのにあたしは

一人。



本当は三上も一緒に・・・・・・・
藤代も笠井も渋沢もも。
みんなで一緒に来る予定だったのに。


三上もいたらもっともっと楽しかったのに。



ふられたって


どっちにしても思い出になっただろうな。





あーあ、なんでこんなことに・・・・
これはこれで苦い思い出ってことでいいのかな。
昨日は死ぬほど楽しかったんだよ!と三上に自慢してやろう。
その時あたしはちゃんと笑えるかな。

暗い空に眩しすぎる出店のライト。
あたしは目を細めながら携帯を取り出した。
そこにはからの着信が2件、藤代からの着信が3件、笠井からの着信が1件、そして渋沢からのメールが一件。

みんな心配症だなぁ。
嬉しくなって少し元気が出た。


とりあえずはに電話をかけようとリダイヤルを押したときだった。






「うぉおおおおぉぉーーーう!!!!?」






頬にヒヤリと冷たいラムネの瓶。
あまりの冷たさにびっくりするぐらい情けない声が出た。


真後ろからはケタケタと人を小馬鹿にした笑い声がして、
あたしは勢いよく振り向いた。







「ちょ!!!」

「なんて声出してんだお前・・・・っ」

「み、かみ!!?」



「なんて顔してんだよ。ったくはぐれてんじゃねーよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」




にっと笑う三上の笑顔はあたしの大好きな三上の笑顔で。
それはやっぱり夢じゃないって教えてくれた。



「・・・・んだよ。」

「い、いや・・・くる、と、は、おもってなかったから・・・・・・・・」

「・・・・・きちゃわるいかよ。」

「悪くないよ!!全然!!」




三上はそのままあたしの横に腰かけた。
そして一本ラムネを開けるとプシュっという気持ちのいい音と勢いよく泡が飛び出した。
「ん。」といって差し出されたラムネ。
なんだか三上がやってくれるとすごく優しく感じる。
「ありがと」と言って受け取ると、冷え切ったビンは指にくっつくみたいに張り付いた。




「いやーにしても、あれだな。」

「何、お祭り楽しい!?」

「いや、全然。」

「あ、そ、そうですか・・・・じゃーなに。」

「孫にも衣装だな。」





三上のラムネがプシュッと音を立てて泡が吹きこぼれる。
それに吸いつくように口をつけた。
キラキラとビー玉がライトに照らされて光る。
星みたいで、すごく眩しく感じた。



「・・・・・・・・・・。」

「・・・ぉお!?おま、何泣いてんだよ!!!」



あたしの眼からはいつの間にかビー玉みたいに大粒の涙がボロボロあふれていた。
浴衣の袖でぬぐってもぬぐってもあふれてくる。


嬉しかったから。
来てくれると思ってなかったし。
はぐれてんじゃねーよ、って言葉と、頬を滴る三上の汗は
きっとあたしを探してくれてたってことで
見つけて、でもうつむいてるあたしを元気づけようって思って
きっとラムネも買ってくれて
普段は悪口しか言わないくせに、照れくさそうに浴衣のこと褒めてくれて

そんなに優しくされたらうぬぼれるよ。


もっともっと好きになるよ





「・・・・・・・・・。」

「・・・っぐ、えっぐ・・・ぶぇっぐ・・・」

「・・・・ったく、きたねぇ泣き方しやがって・・・・」

「・・・・・・・・み、かみ・・・・」

「あー?」

「・・・・・・・・・・ず、・・・っす、きぃ・・・・・」

「知ってる。」

「・・・・・・・あり、が、とぉ・・・・」

「俺の方こそありがと。」





二人の間に妙に静かな空気が流れる。
お祭りのワイワイとした声も気持ち遠くに聞こえる。
ドクンドクンと自分の心臓の音が一番うるさくて、
なんだか恥ずかしくて、
あたしはビンを強く握って俯いた。





。」



あたしが落ち着いてきたところで三上が空のビンを軽く回しながら言った。
カラカラと中でビー玉が鳴る。




「来年は二人でこねぇ?」

「・・・・・・・・。」








三上がお祭りに来ることをしぶっていた本当の理由














渋沢
件名:Re;
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今どこにいる?
まぁ三上が形相変えて探しに
行ったから心配ないとは思う
が・・・・。
鳥居のところでみんなで待っ
てる。

三上、ホントは二人で見て回
りたかったみたいだぞ(笑)
オマケは欲しくないそうだ。












その理由にあたしの頬は一日中緩みっぱなしだった。





空になったラムネの瓶をずっとにぎりっぱなしのあたしに
三上が顔をくしゃっとゆがめて笑う。




カランとビー玉が音を立ててあたし達の笑い声の中に消えていった。



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第一弾は、三上君。
中学生の幼心的なのを表したかったのに!!そんな表現力は私は兼ね備えていなかったこと
忘れてました(てへ☆)まぁ、所詮は私なんで。もうほんとね。すんません。
それだけです。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!!