夏は好き。


お祭りも好き。


浴衣だって風流だし

涼しいし、可愛いし。




花火だって大好き。



大好きなんだけど


行きたいんだけど




あたしには行けない理由がある。















「はぁ・・・・。」

「どーしたの。」


箸をくわえたまま、がきょとんとした顔であたしを見る。

時は昼休み。
あたしとは二人お弁当を食べていた。


「・・・・・・・どーしたもこうしたもないよ。」







「俺との時間があまりとれなくてさびしいだなんて聞きたくないぞ?」





さっきまでの話ですが。
いつの間にか三人になってるんですけど。






「いわねーよ、変人。」


あたしはまた溜息をついて窓の外を眺めた。
そう、この男がいる限り、あたしのイベント行事・・・というか日常生活も含めすべてにおいて、
楽しめない。満喫できないわけで。


、俺はな、できる限りの時間お前についやしているつもりなんだが・・・・それでもまだ足りないのか・・・・。」

「だから言ってねーって言ってんだろーが!!お前の脳みそどーなってんだよ!!天才かよ!!」

「はっはっは、まさかに褒められるなんて思ってもみなかった。俺は幸せものだな。」



いや、ほんとそのポジティブシンキングはどっからくるんですか。
中2の秋、「・・・・って彼氏とかいるのか?」そう聞かれた時、心臓が飛び出るぐらいびっくりした。
まさかクラスというか学校でもかの有名な渋沢にそんなことを聞かれるなんて思ってもみなかったから。
クラスでも学校でも優しくて大人でしっかり者で頭もよくてスポーツ万能でサッカー部の有望なプレーヤーで、
もう悪いことろの方が見つけにくいって思う人で。


戸惑いながらも黙って首を横に振るとニッコリ笑う渋沢はすごくきれいだったのをよく覚えてる。

あたしの中ではもう芸能人みたいな存在だった。


だから、



まさか




「じゃあ今日から俺達、恋人同士になれるんだな。」




こんなキャラクター崩壊が起こるなんて思ってもみませんでした。


わっつ?
何度も意味がわからなくて聞き返しても渋沢は笑って意味のわからないことしか言わない。
そして次の日からあたしを「」と呼ぶようになって
まわりからは反感をかいながらも「渋沢の彼女」というレッテルを張られ
いつのまにか恋人にされてしまった。
未だに意味がわからない。
否定してもあたしに拒否権すら与えられないし、
もうよくわかんない。
あたしもよくわかんない。




そんな感じで今に至る




「渋沢。」

「なんだ?」

「話に入ってくんな、そして教室に入ってくんな。そしてこの日本から出て行け。」

と二人でならどこへだって行くさ。」

「いや、何にこにこしてんだ。一人で出てけ。」

「もぉー二人ともこんな教室でいちゃつかないでよー」

「いやいやいや!目ん玉どうなってんの?一切いちゃついてないから。」

「すまないな、には迷惑ばかりかけてしまって・・・も、もっと素直にならなきゃだめだぞ?」

「あー・・・誰かこの中に殺し屋はいませんかー」

「はっはっは!何言ってるんだ、ヒットマンはだろ?こうやって俺のハートを射止めたんだからな!」

「うまくねーんだよ!!!なにしてやったりみたいな顔してんだコラァアアアアア!!!!!」




いくら冷たく当たっても笑って「照れるなよ、」と前向きな渋沢にあたしはため息しかつけない。
もうどうあがいても暴れても、っていうか死んでも付いてくるような気がして諦める以外に道を見つけられないと悟った。



「で、まぁいいや!明後日空いてる?」


が手帳を見ながら言った。

何がいいんですか、何もよくありませんよ。



「ん?明後日って土曜日?空いてるけど・・・・」

「ホント!?あのさ!明後日夏祭りあるんだけど一緒に行かない?」

「え!夏まつり!?」

「行くにきまってるだろ?」

「テメェーは誘ってねーんだよ。」

「渋沢君も一緒に!!」


誘っちゃったよ!!!
何してんの!

あー・・・怖い、なんか横すっごい怖い。
後光さしてる。
恐る恐る渋沢の方に視線をむけると、
これでもかと言わんばかりの笑顔であたしを見ていた。

顔だけみるとかっこいいのに。
なんでこんなにうざいんだろう。



あたしは知っている。
この顔は
あたしに何かお願いがある時の顔だって。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・なに・・・・・・・・・・・・・。」

「もちろん着るんだろう?」

「何を。」

「浴衣。」

「着ないよ。」

「なんでだ?」

「持ってないし。」

「あたし2枚持ってるよ!!」

「いや、でも着れないし!!」

「着付けできるよ!!」



さん



嫌がらせですか・・・・・・・・・・?


もう一度渋沢の方に視線だけをちらりと移す。




「・・・・・・・・・着るんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「キスするぞ?」

「着ます。是が非でも着させてください!!!」






あーもぉーーーー

こーなるから嫌なんだ。

学校だけだったらまだいい。
もはや学校公認だから。

でも一歩外に出たらあたし達はただのアホみたいなカップルになってしまう。


渋沢は見せつければいいとかわけのわからないことを言うけど
あたしはいやだ。

っていうか普通はなんかこう二人っきりのときだけ甘い時間が流れればいいんじゃないの!?
なんかこう普段はそっけなくてみたいな感じだけど二人のときだけは恋人同士寄り添って・・・
みたいなのがいいと思う。あたしは。少なくともあたしは!!!!


こう四六時中他人の眼も気にせずなんて不可能です。





だからイベント行事はイヤなのに!!!















?」

「・・・・・・・・・・・・何、」

「いつまでもそんな顔、してないぃ・・・・っのぉ!!!」

「ぐへぇ!!!」



きゅっと帯をきつく締められてあたしの口から色気のない声が飛び出た。
最後までしぶっていたものの時間は止まらないわけで。
しぶしぶ自分で買った下駄に足を通すともう既に親指と人差し指の付け根が痛んだ。


「お財布持った?」

「持ったー・・・」

「もーこれからお祭りなんだよ!?楽しも?」

「・・・・・・・うん。」





楽しみたいですよ、私だって。
寮の鍵をかけたことを確認してあたし達は神社に向かう。
もう既に外はお祭りに行く人たちでにぎわっていた。
待ち合わせ場所の鳥居の前では楽しそうに喋っている渋沢との恋人藤代、





それに女の子たち。





一瞬びっくりした。



渋沢が


あのいつもニコニコの渋沢が



?」

「・・・えぇ!?」

「なに〜やきもち〜?」


がにやにやとした、いやらしい笑顔を浮かべた。



「いや全然・・・・・・そうじゃなくて・・・」






















「渋沢・・・・全然笑ってないんだもん・・・・・・。」





「え?すごい笑顔に見えるけど・・・・」

「・・・あっ!!!先輩!!!!」




不思議そうに首を傾げるに気づいた藤代が手を振りながらこっちに向かってきた。
その姿は人懐っこい犬みたいでかわいい。
に頭をぽんぽんとなでられるとにっこり笑った。


「先輩達浴衣だったんですね!!全然気づきませんでしたよ!!」

「あはは、どう?似合う?」

「はい!!スゲーかわいいっす!!」

「ありがと・・・ってあれ?渋沢君は?」

「え?あ、そういえば・・・」



渋沢は鳥居の前で驚いたようにつったったままでいた。
いつもならえ、いつのまにあたしの真後ろに!?こわっ!!ってなるぐらいのスピードで傍にきて、
うざいぐらいに眩しい笑顔で、うざいことを連発するのに。




「どうしたんだろうね?」

「そーっすねー・・・」

「うーん・・・やっと自分の脳みその異変に気がついたんじゃない?さっきだっておかしかったし。」

「へ?さっきっすか?」

「うん。さっき女の子としゃべってたじゃん?」

「あー・・・はい、なんか先輩たちと同じ学年の女の先輩が声かけてきましたけど・・・・」

「渋沢、全然笑ってなかったよね?」

「え・・・いや、俺が見る限りでは超笑ってるように見えましたけど・・・・」

「あたしも・・・・・」


二人が驚いたように顔を見合わせる。




ん?とうとうあたしの頭がおかしくなったのか?



「えー・・・・まぁいいか、大人しいにこしたことはないわけだしね。」






あたしは短い溜息をつきながら彼の方に歩いて行く。





おかしくなったのかもしれない。



だって、ちょっと今イライラしてる。
なんなんですか、
あんたが着ろっていうから来たんですけど。
そんなに似合いませんかね。



「おいコラ渋沢。」

「・・・・・・・・・。」



無視ですか。
ぼーっとあたしを見たまま渋沢は何も言わなかった。

「具合悪いの?」

「・・・・・・・・いや・・・・・・・・・」

「帰れば?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー・・・」



気持ちが悪い。
さっきからあたしの質問にあーだのうーだの唸ってちゃんと返答しない。
右手で口元を覆ったまま考え込むようにして渋沢は何も言わなかった。




「二人とも!!」

「んー?」

「とりあえず先まわってていーよ!!」

「へ?」

「なんか渋沢変だから家に・・・・・・・・・・・・」




帰らせる、と言い終わる前に渋沢の大きな手があたしの手首をガシっと掴んだ。



「俺達帰るから、藤代!すまないが二人で回ってくれ!!」

「へぇ!?キャ、キャプテン!?」

「本当にすまない!!」

「い、いいっすけど・・・・・・・。」

「渋沢!?なんであたしも帰るの!?」

「帰りはちゃんとを寮まで送ってやるんだぞ。」

「はい!!」

「いや、え!?え、えぇ!?」



わけもわからず二人の横を通り過ぎてあたしはずるずると来た道を引きずられていく。
だんだん静かな道に来たところでやっとの思いであたしは渋沢の手を振りきった。



「渋沢!!!」




夜の静かな道に、あたしの声が響き渡る。



「・・・・・どうした?」

「なっ!どうしたもこうしたもないよ!!むしろどうしたの!!」

「・・・・俺か?」

「当たり前じゃん!何かいつもと様子違うし、いきなり帰るとかいうし、さっきだって全然笑ってなかったじゃん!!」

「・・・・さっき?」

「さっき女の子たちに囲まれてた時!!なんか変だよ!今日!!」




いつもうざいぐらい笑顔で、うざいぐらい付きまとってきて、
お祭りとか行事だって大好きなはずなのに。
それにさんざん浴衣着ろって言ってきて来たらそのことには触れないし。
あたしは、たぶん心のどこかで当り前のように思っていた。

渋沢がかわいい
似合ってる


絶対言うって。
うぬぼれてた。
恥ずかしい。
でも、どこか寂しいと思っている自分もいて。


あたしは下唇を強くかんだ。




「渋沢・・・・・・どーしたのさ。」





あたしの発言に丸くしていた渋沢。
しばらくしてまた右手が口元を覆う。





「・・・・・・・・・どーしたもこーしたもない・・・・・・・・」



すっと近づいてきて今度はすごく優しくあたしの手を握った。
夏でも夜は風が抜けてすごく涼しかったのに、
渋沢に握られた手からあたしの体温はぐんぐん上がっていくのがわかる。









「今日は俺はもう・・・・・・・・・幸せすぎて祭りどころじゃない。」



「・・・・・・・・・・はぁ?」




意味のわからない渋沢の言葉に間の抜けた声が出た。
あたしの手を握ったままゆっくり渋沢が歩きだした。
あたしもそのちょっと後ろを手を引かれながら歩く。



「どーせ着てこないだろうって思ってたんだ・・・」

「・・・・自分が着ろっていったくせに。」

「ああ、だから余計に着てこないだろうなって思ってた。それに外で会うの嫌がるだろ?」

「うん。」

「はじめは食べ物でもおごって機嫌を取ってが笑えばそれでいいって思ってたんだ。」

「うん。」

「でも浴衣姿で、すごく似合ってて、どうしていいのかわからなかった。」

「・・・・・・・・・・。」

「見惚れた。全然余裕なんてなくてな・・・・」

「・・・・・そいつはどーもありがとーございます・・・・・」



よくもまぁそんな恥ずかしい事を・・・・。
あたしは小さくお辞儀をして俯いた。
夜道はあたしの下駄のからん、ころん、という音と渋沢のスニーカーがコンクリートをこする音しかしない。
もう神社のお祭りの騒がしい音は届かない。




「しかもに気づかれるなんて思ってなかったよ。」

「は?」

「顔、」

「え、ああ、なんか普段の作り笑顔とも違ったよね?」

「・・・・驚いた。」

「は?」

「そんなことまで見抜かれてたのか・・・・」

「いや、だって渋沢ってよく笑ってるイメージあったから・・・・」

の前だけでな。」

「・・・・・・・・・・・・・・あのさ、恥ずかしいこと言わないでよ。」

「ホントのことだ。」


「・・・・・・・・・・・しね。」とつぶやくと渋沢は小さく笑った。
なんだか変だ。
普段だったらこんなにドキドキしないのに。
今日は渋沢がかっこよくて、静かで、大人だ。

こういうときがあるから、きっとあたしは渋沢をふりきれないんだろうな。

なれない雰囲気にあたしはさっきより深く俯いた。



「いや、正直と出かけることが楽しみで嬉しくて女子の話なんてどうでもよかったんだ。」

「・・・・・え、あの、渋沢さん?」

「部活が忙しくてあんまり出かけられないからな。俺にとってかなり貴重な時間なんだよ。」

「いや、だからってどうでもいいて・・・ひどいな、おい。」

「俺は以外目に入らないからなぁ・・・」

「あーはいはい、そーゆーの耳にタコなんで・・・。」



あ、やっぱいつもとかわんないっすね、こいつ。
呆れて溜息混じりにいうと渋沢の足が急にとまる。

そんなこと聞いてませんよ
と言わんばかりにあたしの融通の利かない下駄さんはずずずっと滑って前にずんのめった。


それを待ってましたと渋沢がささえるように体を滑り込ませてあたしを抱きしめる。
ぼっと体に火を灯されたみたいに全身あつい。
っていうかここ外!!そと!!


「ちょ!!おいコラ!!外だぞ変態!!!」


どなってみても暴れてみても
離れない体。



耳元にそっと寄せられた渋沢の唇。
もれる吐息にビクンと体が跳ねた。


「そうやってすぐ流そうとするのは、俺のこと、本気で好きだから、だろ?」



いつもより低くあたしの心臓に響く声はあたしの頭をおかしくしたんだと思う。



「はっ!!?意味分かんないから!意味分かんないし!なんでそうなんのなんでそんないつもいつも都合よく・・・」

「だって、普段の作り笑いも、さっきの作り笑いだって、誰も気づかないんだぞ?」

「はぃ!?」

「俺だって気付かれないようにぬかりなくやってるつもりだし、まさかが気づくなんて・・・俺のこと見てる証拠だろう?」

「なっ、そんな、だっ・・・・」











いやいやといつも首を振ってるは
別に渋沢が嫌いなわけじゃない。





こんな時くらい
素直に口にしてやってもいい







「あ、あたしはっ・・・し、ぶ・・・さわの・・・・か、彼女なんだから当たり前でしょ!!!?」



ぎゅっと渋沢のシャツを握って俯いたまま言った。
好きとか、そーゆーのはあたしには似合わないから。
これがあたしの精一杯。







「・・・・・・、俺人生で一番今日がうれしいよ。」







ああ、今きっと


いつもみたいなすっごい笑顔なんだろうな、と心の中で思ったけど、
自分の顔が熱すぎて渋沢の顔を見上げる余裕なんてあたしにはなかった。



























おまけ










「あーもーだめだ。帰るぞ、。」

「えぇ!?っていうかお祭り行こうよ!せっかく浴衣まで借りて着てんだからさ!!」

「ああ、でもほら、まだ花火とかもあるわけだし。今日はこの興奮が冷めないうちにを抱くから。」

「いや、無理だしやだし、死んでほしい。」

「俺一度はやってみたかったんだよ、帯をくるくるくるぅーって・・・・」

「おいコラおやじ。まさか浴衣、そのためか?」

「そのためでも、ある。」

「死ね。」








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はい、第二段は渋沢君です。
お祭りあんま関係ないしー
渋沢ってこんなんでした・・・・・・・・・?
白い渋沢が好きなドリーマーさん!!!
本当に申し訳ありません(土下座)
私には彼がこう見えちゃうんです・・・・・・・(どんな目ん玉してんだ)
とにもかくにもここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!!!