先輩。」

「ん?」

「今日の夜なんですけど花火、しません?」

「花火?」



あたしがみんなの練習着を洗濯している時、
笠井がボールを持ったままにっこり笑って言った。
カンカンに日が照る真昼間、真っ黒な笠井の髪がきらきらに光っていてあたしは目を細める。



「いいけど・・・なんで急に花火?」

「え、急ですか?」

「え、急・・・・・でもないか。」


まぁ夏だしね。
そんなに急ってことでもないか。
一人でうなずく。


「えっと、じゃああたしみんなに声かけとくね!」

「いや、大丈夫ですよ。」

「あ、ほんと?じゃあお願いね。」


笠井は嬉しそうに笑ってくれた。



「それじゃあ夜にまたメールします。」





ペコリと頭を下げて練習に戻っていく後姿をあたしはいつまでも見ていた。




「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・おい、こら。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「おいコラボケェ!!!」


グーで後頭部を殴られて、初めて我に返った。
そこにはさっきよりもやまもりになった洗濯物を抱えたが眉間にしわを寄せて立っていた。







あああ、どうしよう。


早く夜にならないかな。









あたしと笠井の出会いは実は部活じゃなくて入学式の日の渡り廊下だったりする。
入学式の新入生案内委員で廊下をうろうろしていたあたし。
桜の花が満開で風が吹くたびどこからもとなく桜の香りが漂ってきたのを覚えてる。


「あの・・・・」


声をかけられて振り返るとあたしのハンカチを持ったネコ目の小さな男の子。
あどけない顔は少し不安そうな、困ったような表情を浮かべていた。
胸にある花をみれば新入生ということがわかる。


「落されましたよ。」

「あ、ハンカチ!!ありがと。」

「いえ、あの、・・・・・・・・・体育館はどこですか?」

「あ、うん!案内します!!」



体育館までの短い距離だけど色んな話をしたのを覚えている。
サッカーの話とか、あたしがサッカー部マネージャーの話とかまぁ主にサッカーの話だけど。
その時に眼をキラキラさせてあたしの話を聞く笠井はすっごくかわいくて
はじめての後輩に胸がどきどきした。
そのあと、サッカー部に入ってきて、サッカーをしている姿をみて


一年たてばとってもたくましくなってかっこいい笠井に


あたしはどんどん惹かれていった。



いつのまにか


かわいい後輩だった彼は


もうあたしの好きな男の子になった。









「・・・・・・・早く夜にならないかな・・・・。」






そっと空を眺める。


今日の日は、なかなか落ちない気がしてならなかった。





























「先輩!!こっちです!!!」

「おお!!笠井!!」


寮の前で黒のTシャツにジーパン姿の笠井を見つけて駆け寄る。


「おまたせ!!」

「いえ、じゃあ、いきましょっか。」

「うん。えと、花火どこでやるの?」

「すぐそこの公園ですよ。」




暗い中でさりげなく車道側を歩いてくれる笠井は
年下とは思えないぐらいに大人びた横顔をしていた。
あの頃から1年しかたっていないのに笠井は大きくなったなぁ。
しみじみ思う。




公園はしんと静間にかえっていた。
誰もいない。



「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・先輩?」


あたしの様子が気になったのか、
笠井が首をかしげた。



「え、みんな、は?」

「みんな、ですか?」


あたしの質問にさらに首をかしげる笠井。



「うん・・・・あれ、お願いしたよね、あたし。」

「・・・・何をですか?」

「え、何って・・・・・・いや、声かけ・・・」





あたしの言葉に笠井は、はっとしてから恥ずかしそうに右手で口元を隠す。



・・・・かわいいなぁ・・・・。
って思ってる場合か、私。



「笠井?」


黙る笠井の顔を覗き込むようにしてあたしは彼を見る。
大きな目が猫みたいでかわいくて、胸がキュンとした。















「花火はふたりでのつもりだったんですけど・・・・・」


















「え・・・」











言葉に詰まる。







「いやですか?」

「い、いやじゃない!!いやじゃないです!!」










驚いた。
まさか笠井が誘ってくれるとは思っていなかったから。
しかも二人でだなんて・・・。
純粋に嬉しくてあたしは一生懸命「したい!!二人で花火したい!」とうなずいた。




「アハハ、ありがとうございます。」





またにっこりと笑う笠井に胸が高鳴った。
今日はドキドキさせられっぱなしだなぁ・・・・。







真夜中の公園。
パチパチと七色に光る花火は星のようにきれいで
それを見て楽しそうに笑う笠井を見るとあたしも自然と笑みがこぼれた。



この夜がずーっと続けば、



なんてことを想いながら。





「先輩!!!」

「えーー、何ぃー?」


両手に花火をもって煙に眼を細めながら返事をする。


「俺ー・・・」

「んー?」

「俺・・・・・」


「何ー?」






花火が、
燃え尽きたとき


はっと気がついた。




笠井の真剣な顔。




サッカーをしてるときとはまた違う


男の顔。




ゴクリと喉が鳴った。









「・・・・・・・・・笠井?」



























「俺、先輩が好きです。」






















体に電気が走ったみたいに




ビビビビっとして。





息が止まった。










「・・・・・・・・・・・笠井・・・・・・?」

「本気ですよ、俺。誰にも渡したくないんです。」

「ちょ、笠井・・・・・・」

「先輩は俺のこと弟みたいに思ってるかもしれませんけど・・・・。」

「・・・か、さい・・・」






「俺は入学式のときから、先輩が好きでしたよ。」














笠井の切なそうに笑う顔が綺麗すぎて

目が離せない。





「急にこんなこと言ってすみませんでした。」

「えっ・・・・」

「困らせたくなくて、ずっと黙ってました。先輩がキャプテンを好きなの知っててこんな・・・」

「・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・」




誰が


誰を好きですと・・・・・・・・・・・・・?






「今気持伝えられてすっごいスッキリした気がします。」

「え、え・・・・・ぇえ!?」



あたしはすっきりしてないんですけど!?
あたしがまだ混乱している中で、
あたしの手からそっと燃え尽きた花火をとってバケツに差し込む。


「あー・・・・帰りましょうか。なんかあれですし。」



眉毛をハの字にして笑う笠井を見て


いてもたってもいられなくて




あたしは笠井の手をとった。










ぎゅーっとぎゅーっと握る。



これでもかってほど力を入れて。





「せ、先輩?」

「馬鹿!勝手に勘違いしてんな。」

「へっ?」

「馬鹿すぎる!誰が誰を好きだって!?ったく、こんなバカな弟はいりません!!!」















いらないよ







弟の笠井なんて




欲しくない。













「弟なんかじゃなくて・・・・・・・・・か、彼、彼氏になってくれればいい・・・・・・・・・。」




「・・・・・・・・・・・・っ!!」






あたしの言葉に眼を丸くする笠井。
でもすぐにその言葉の意味を理解したのか頬を赤くして優しく笑った。








先輩、」

「はい・・・・」

「好きです。」

「・・・・・・・・・・・あ、あたしも・・・・・・・・」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・な、なに・・・・。」

「あたしも?」

「あたしも・・・・」

「あたしも、なんですか?」

「へ・・・・?あっ!なっ!!!」

「言ってくれないんですか?」

「え、あー・・・・・・・・うー・・・・・」






目をそらして熱くなった頬を押さえながらあたしがもごもごしていると
クスクスと小さな笑い声がした。



「先輩。」

「ん、」

「線香花火しません?」

「・・・します!」

「もし先輩の方が先に落ちたら好きって言ってくださいね?」

「えっ・・・・・・・・いいよ?」






真っ暗の中、笠井のはにかんだ顔がよく見えたから
あたしの真っ赤になった顔も見えたのかななんて思ったら
もっと恥ずかしくなった。





そのあと線香花火をして


笠井があたしの手首を笑顔で叩いて



ポトっとむなしい音がして



暗闇に花火が消えていったことは言うまでもない。








------------------------------------------------------------------------------------
第三段は笠井君。
あれ、もう祭り関係ねぇ・・・・祭り出てこなかった。
でも花火ってなつっぽいですよね!?夏っぽいよねぇ!?
夏だよねぇえええーーーーーー!!!!!!!!!


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!