ホントはね、
大好きなんだよ。


でも素直じゃないあたしの口からはね


そんな言葉



出てきてくれないんだ。








「おいコラ、藤代。」

「・・・なんすか先輩。」

「なんすかじゃねーんだよ!コラァアアア!!テメェーあたしの最後のコアラ食ったろ。」

「食ってません。」

「嘘つくんじゃねー。マーチングしただろ。」

「マーチングしてません。」

「嘘つくんじゃねーよ!!!」

「イタタタタタタ!!!!!だって腹へってたんですもぉーーーん!!!」

「やっぱ食べたんじゃん!!あれほどあたしのではマーチングすんなって言ってたじゃんかぁあ!!!!」







「・・・・いや、マーチングってなんだよ。」




あたし達のやりとりをぼーっと見ながら三上がつぶやいた。


ちょうどあたしのスリーパーホールドが藤代に決まった所でバッと三上を見て叫ぶ。



「あたしのコアラのマーチを藤代が食べちゃったの!!!!」

「・・・・・・・・・ふーん。」

「いや、ふーんじゃなくて!!助けてくださいよ三上先輩!!!」

「いや、俺がお前を助けるわけねーだろ。」

「私もそう思うよ。」

「ぇぇえぇえぇえええええーーーー!!!?」







あたし達はいつもこんな感じだった。
マネージャーのあたしはいつも練習が終わった後にみんなと一緒に登下校する。
朝練の後ももちろん夕方からの練習が終わった後も。
寮までの短い時間こうやってふざけたりする。


こうやって藤代をいじめるのも日課だったりするわけだけど。



あたしはただ後輩だからいじめたいわけじゃない。



かわいくないあたしは、どうやってこの気持を表現すればいいのかわからなくて、

藤代をただただ締め上げることしかできなかった。


まああれだ。

これも愛情表現ってやつだし?

あたしらしさ?




オリジナリティー?














「不器用な奴。」

「・・・・・・・・おっしゃるとおりでございます。」




渋沢と三上の部屋で、あたしはお茶をすすりながら俯いた。



「だいたいなんであの馬鹿犬が好きなんだか・・・・」

「あたしもなんでだかよくわからん。」

「ほら、類は友を呼ぶ、みたいなそういう原理じゃないのか?」



渋沢さん。
それ、あたしが馬鹿ってことですか。


あの笑顔に声は出さずにツッコんだ。



こうやってたまに二人に相談して話を聞いてもらったりアドバイスしてもらうのもまた日課になっている。
三上は普通にやなやつだけど、優しいし真剣に話を聞いてくれて、
渋沢は飴と鞭を上手に使い分ける男だ。



「あたしやっぱ恋愛とかよくわかんないしむいてないんだよ・・・・」

「そんなこと言ったってしょうがねーだろ、今話してんのはそういうことじゃねーんだよ」

「そーだ。は藤代と付き合いたいんだろ?」

「付き合いたい・・・というかなんというか・・・・好きだから・・・・付き合いたい・・・っすね・・・。はい。」

「じゃーさっさと告白すりゃいいだろ。」

「そんなんできたら苦労しねぇーっつの!!!」



バンっと三上が机をたたく。
あたしの体はびくっと縮こまった。


「そんなこと言ってたら一生そのままだぞ!!きりねーだろ!!!」

「そ、そうなんだけどさ・・・・」




怖いんだよ。
今の関係が壊れるのが。
あたしは、藤代に告白して、振られて、そのあと気まずい感じになって
今みたいに接せなくなる様子が、イメージが流れ込んできて。

体がすくんだ。









「俺にいい考えがあるんだが・・・・」



そんなとき渋沢がすっとあたしの横に座る。



「ど、どんな考えですか守護神様!!」




「んー・・・・・・・・・?」




「・・・・渋沢?」









「お前のがんばり次第、ってところかな。」






渋沢がにっこり笑ってあたしの頭を叩いた。
大きな掌は
すごく優しかった。






















それから一週間がたった。



夕方、あたしは部屋で鏡の前に座っていた。
着なれない浴衣に身を包んで、
必死に自分に言い聞かせる。




「あたしは、今日、告白する。告白する。告白、する。」




渋沢の提案は

夏祭りのムードに合わせて

告白する、といういたってひねりもくそもない単純なものだった。


でも、タイミングのつかめないあたしにとってはナイスアイディアで。


うん。大丈夫。
勝負下着ならぬ勝負浴衣は普段のあたしよりもきっと好印象になるに違いない。
ほら、あれだよ。孫にも衣装!みたいな。
・・・・自分で言ってて悲しくなるな・・・。

短い溜息をついてあたしは下駄をはいて外に出る。


寮の入口でみんなと待ち合わせていた。


後ろ姿でわかる藤代は、Tシャツにハーフパンツに身を包んでいて、いつもどおり。




「おぉー・・・・・・」




「だからないっすよ!!!」




声をかけようとしたとき、藤代の大きな声が耳に飛び込んできた。




「んでねーんだよ、いいじゃん。」

「いや、ほら、なんかねーちゃんみたいな、そういう人ですから・・・あ、いやねーちゃんでもないか!めっちゃ餓鬼だし!!」




あたしの、こと?



足に根が張ったみたいにその場から動けなくて、

あたしはその会話をただその場で見ることしかできない。





「俺はもっと守ってあげたくなるようなかわいい子が好みっす。」


「ふーん・・・・・・」

















心の中で、
何かが崩れおちる音がする。







「・・・あっ」



こっちを見ていた三上があたしに気がついて声を上げた。
それに反応して藤代が振り返る。



彼と目が合った瞬間

あたしは死んでしまったのかと思った。




その場に立っていられなくて
苦しくて
どうしていいのかわからなくて


駈け出した。









先輩っ!!!」


藤代のあたしを呼ぶ声が耳に響く。


でも今は聞きたくないよ。




走りにくい下駄を脱ぎ棄てて、

浴衣のすそをまくりあげて走ったのに





200メートルもしないうちにすぐに藤代に捕まってしまった。

まける自信はなかったけど、
捕まりたくなかった。
必死に捕まれた右手を振りほどこうとしても全然放してくれなくて
涙があふれる目もとを隠すことも、その涙をぬぐうこともできなくて
ぼたぼたとコンクリートに落ちていく。




「・・・・先輩。」

「・・・・っく・・・あっ・・・」

「なんで泣いてるんすか、」

「・・・・泣、いて・・・なっ・・い・・・・」

「泣いてるじゃないですか!!」

「うるさいなっ!!!ほっといてよ!!!!」

「ほっとけるわけないじゃないっすか!!!!!」





静かな住宅街にあたしと藤代のどなり声が響いた。



ああ、
その優しさが
痛い。



「・・・ごめん、ホントマジなんでもないから。ごめん。」

「・・・なんでも無くて先輩は泣かないじゃないですか・・・・」

「・・・・。」

「ほら、裸足なんかで走るから・・・赤くなっちゃってるじゃないですか・・・・。」

「大丈夫だよ・・・ほら、ちょっと情緒不安定だっただけだからさ、なんでもないから。」

掴まれていない手で涙をぬぐいながら必死に笑ってみせる。
でも声は震えてきっと顔もぐちゃぐちゃ。
藤代がゆがんだ表情であたしを見ていた。


「・・・・今日、お祭りに先輩が来るって聞いて、俺・・・・」

「あー・・・やだったよねーごめんね。もっと女の子らしい女の子と行きたかったよね?

ごめんねー気が利かないでさー、可愛い子さそっときゃよかったね、藤代好みの子。

あたしなんかが、来ちゃって、ホント申し訳ないっていうかさー・・・・」








自分でもむなしくなるぐらいに悲しい。
でも、それでもあたしの口から彼を好きだという言葉が出てこないってことは
きっと辛くても、悲しくてもこのままでいたいんだと思った。
あたしは今日から、藤代のお姉ちゃんになれるように頑張るよ。
だから、だから・・・嫌いにならないで。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」






真剣な顔の藤代の顔。

涙でゆがんでいたもののちゃんと見えていたのに、

一瞬見えなくなって、

その代わりに感じたのは唇に柔らかい感触。



何が起きたのかわからなかったけど、

藤代の顔が10センチぐらいの所に現れて、
唇に残った熱にあたしはキスされたのだとようやく理解する。



「ふ、じしろ・・・・?」

「俺、先輩とお祭り回れるって知ってスゲー嬉しかった。でも同時にさびしかった。」

「・・・・。」

寂しい?
彼の言っていることに軽く首をかしげるとぎゅと腰を引き寄せられて抱きしめられた。



「三上先輩とか、渋沢先輩も一緒で・・・ああ、やっぱり俺ってオマケなのかなって。弟みたいなもんなのかなって。ただの後輩だって思われてんだってわかったから。」

「ふじしろ・・・・」

「三上先輩に先輩のこと聞かれた時、スゲービビって、もし先輩に俺の気持ちがばれちゃったら、もう今みたいに接してくれないかもしれないって思って・・・・嘘つきました。」




「ホントは俺、先輩のこと・・・・・・・・・・・・・・・・」






藤代の言葉にあたしは目を見開く。
だって

だって
だって
だって
だって









「あたしも、お、おんなじこと・・・考えてた、よ・・・・・・?」

「へぇ!?」

「でも、今日は、が、頑張ってこくは、く・・・しようと思ってて・・・・浴衣とか着てみて・・・でも、藤代があたしは、ないて、いった、から・・・」

「いや!ちが!あれはだから違うんですってば!!!!」

「・・・・・・あたしは・・・・藤代のこと、す、き・・・だから・・・・こんなに優しくされたら期待する・・・・」

「違います!!!」




さっきよりも強く抱きしめられて、
藤代の息使いが耳元に聞こえる。







「あたしは、じゃなくて!あたしも!!俺だって先輩が好きです!!期待じゃなくて、信用してください!!!」









元気な声。
嬉しくてあたしも抱きしめ返した。












「あーあー・・走ったから少し乱れちゃったなー浴衣。」



お祭りへ向かう道、あたしはため息交じりに浴衣を見て言った。


「ホントびっくりしましたよ、全然追いつかないんですもん、相手浴衣なのに!」

「いやー逃げ切れるかなぁーって思ったんだけどね〜・・・」

「逃がしません!」


そう言ってあたしの手をとって
藤代は強く握った。








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四作目は藤代です。いや、ホント藤代のつもりで書いたんですよ!?
なんでこんな似非・・・・・・・・!っていうか私森大好きだなおい!!!
そしてもうネタが尽きてきました・・・・。そろそろ夏関係なくなってきそうな予感がしますね。
アハハハハハ!!!!

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!!