流川楓




その名前を知らない女子がいるだろうか?




気持ちの悪い汗が背中を伝う。






男子バスケ部期待のルーキーであり、その容姿とプレーに心を奪われる乙女が後をたたないらしい。
は?るかわー?かっこいいー?興味ないんですけどーのあたしですら知ってるぐらいの有名人。

人気があるなんてもんじゃない。

親衛隊なんてものもあるらしいし。


それはつまり、

彼とかかわる=般若の乱(激しいイジメ)以外想像がつかないわけで。
いや、その激しいイジメもおぞましすぎて想像つかないけど・・・・・。

今までそんなことには無縁というか疎遠なあたし。
めんどくさいことには絶対に巻き込まれたくない。
っていうか知ってたらもう今すぐ授業に喜んででてるところだっつーの。
あんなに会話してないし!!!


あああ・・・・
でもまぁ・・・たかがが一回だし?
誰にも見られてないし?
これで終わりだし?





「関係ないか・・・・・・。」





うん。関係ない。
頭の中で結論も出て、すっきりとした気持ちでにメールを打つ。
今日は外が気持ちいからご飯は外で食べようと。そしてあたしの鞄からお弁当を持ってきてくれと。
打ち終わった後、しばらくして屋上のドアが開く音がする。


どんどんと近づいてくる足音に迷いは無い。きっとだと思った。


足音が調度止まったところで

「早かったねー!!!聞いて聞いて!この短い間にすごい事があったんだから!」



と、ぱっと顔を上げて、の方を見上げる。






でも、そこにいたのでは無くて



「・・・・・・・・・。」



あたしの顔はひきつった。




「・・・・・・・・・・るっ・・・・かわ・・・・君。」



「・・・・・おう。」









・・・・・・・・・・・・・いや。
うん。






あたしの前にドスンと胡坐をかいて座った彼をあたしはただ唖然として見ることしか出来なかった。



いやいやいや。
なんでここに座るの!?どっか行け!おいコラ!立ち去れ!!っしっし!!!
ゴーハウス!ゴーハウス!!





「・・・・・なに」

「いえ!?な、何も・・・・・・・・」




あたしの祈りも通じず、彼はあたしを一にらみしてパンにかぶりついた。
しばらくしてきゃあきゃあと女子達の楽しそうな声が聞こえてきたり男子達のわいわいとした喋り声が聞こえてきた。
次々と屋上に人たちが集まってくる。
その声が耳に届くたびあたしの背中には気持ちの悪い汗が吹き出てきた。
どうしよう。
こんな現場を目撃されたら
あたしが原稿用紙800枚分の弁解をしたところで誰も信じてくれないだろう。
彼とは無関係なんです!彼と私はぶつかったものとぶつかった者をにらむそんな理不尽な関係なんです!
そう叫んでみようか。今。いやいやいや。それは違うって、そしたら余計人集まってきちゃうって。
えぇ?何処と何処をぶつけてそれをにらむ関係ですかこの野郎。下ネタですか?ってことになってくるからね。
ああああああ、どうしたらいいんだ。誰もくんな。ここに。誰にも気づかれなければこの事態も穏便にやり過ごせるんだ。
頼む!神よ我に味方しろ!!!


そう祈って目をぎゅっとつぶると、




バコッと何かがコンクリートに落ちた音がして




あたしはゆっくり目を開けた。



そこには
過去から未来にタイムスリップしてきた江戸時代の人が初めてテレビを見たような、それぐらいに驚いた様子であたしと流川君を見る親友の姿があった。







「・・・・・・ハロー、マイフレンド。一生のお願い、そばに来て。」

「・・・・・・・・・・・・断る。」




コンクリートに落としたあたしのお弁当をそのままにして彼女は踵を返す。




「ちょちょちょちょちょちょちょちょ!!!」

「いやいやいや、待たない待たない。ホラあれだ。これ。アレだよ。帰るよあたしは。アレだから。ホラ、塾だから。」

「いや、塾ないって。っていうかどんだけ動揺してんの。これ。らしくないって。」

「いや、それこっちの台詞だよ。あんた流川君と付き合ってたの?なんで教えてくれなかったのさ。そしてもうあたし達はこれっきりよ!」

「ぇえーーーー!?何!?流川のつながりが縁の切れ目!?っていうか付き合ってないから!お願いだからあたしの話を聞いてよ!」

「いや、と話すことはなにもない。」

「おぉおーーーい!!親友!見捨てんなこら!!」



なんとかを説得して、今までの事を話す。
流川君の前だから上手く説明できてないような気もするが・・・とりあえずあったことをあったまま話した。
は「ふー・・・ん・・・。」と頷いて、流川君はいつの間にか横になって寝ていた。
なんとも異様な光景に自分でも困惑する。




「いやー・・・・なんだろね・・・。」

「うん・・・。」

気に入られてんじゃないの?」

「ままま!!まさかぁ!!流川君が誰かを気に入るなんてあたしがパリコレデビューすると同じぐらいありえないよ!!」

「・・・・たとえ微妙だよ。」

「いやだって!だって無いって!!大体今日会ったの初めてだしさぁ!」

「うーん・・・まぁ・・・確かにねぇ・・・・。」


あたしとはひそひそ声でしゃべる。
流川君を夢から目覚めさせるのはタブーらしい。
まぁ今この状態で流川君が起きて大暴れしたら手がつけられないし、
何よりこの状況を他の人たちに知られたくないし。





「多分アレだよ。あたしみたいな女に驚いたんじゃない?自分を見てもキャアキャア言わないしさ、あとはここ。この場所が気に入ったんだよ。」

「あー・・・なるほど。その線はあるかも。にしては鋭いじゃん。」

「でしょでしょ?あへあへ。」

「・・・・気持ち悪。」

「え、ご、ごめん・・・・。」







そのあとあたし達はいつもどおり他愛もないことを話す。
やっぱり声を潜めて。
こんなコトがあっても普通に接してくれる綾佳は本当に大好き!とあらためて思った。

しばらくしてチャイムがなりがうんしょと立ち上がりぐぅとのびる。
流川君はまだ寝たまま。
彼を見ていたらあたしもだんだん眠くなってきて、次の時間もサボることにした。
「ギリギリまで休むとあとつらいから気をつけてね」とに釘を刺されながらも苦笑いして手をふった。






「・・・・・まつ毛なげぇー・・・・。」


思わず見入ってしまうぐらい綺麗に整った顔。
さっきまではキッと人をにらんでる怖いイメージだった顔も今はずいぶん幼く見えた。
こんなに近くで彼を見てるのって彼女以外であたしだけなんじゃないか?
っていうか彼女いんのかな。なんか興味なさそうだけど・・・。
でも、もしいたらきっと超ウルトラかわいいんだろうな・・・。
じゃないとつりあわないだろうし。
まぁこんな美形を生きてるうちに拝めたなんてラッキーだったな・・・・。

ふう、と一息ついてからあたしもゆっくりとその場で横になった。
コンクリートが少しひんやりして気持ちいい。

今日でこんな近くで彼を見れなくなる。今いっぱい見て目の保養にしておこー。


のんきに彼をじっと見つめながらあたしはゆっくりと深い眠りに落ちた。






どれくらい眠っていたのだろう。


自分ではわからないけど日はとっくに暮れていて

気づけば屋上には一人。


携帯をみれば新着メールが4件来ていてそのうちの一件はからだった。
今日は彼氏と帰るね〜っというメール。
他3件はメールマガジンで自分の友達の少なさにちょっと泣けた。(別にきにしてないけどね)


横にいたはずのイケメンボーイもいつのまにかいない。
きっと部活に出て行ったんだろう。




あんにゃろ・・・・
人には起こせとか言っておきながらあたしのことは起こしてくれないのか・・・・・





「ま、別にいいけど。」


ポツリと独り言をもらしながらもあたしは教室へ鞄を取りにむかった。















あの日から一週間。
あたしは真面目に授業に出ていた。
先生にも「お?今日はちゃんといるのか?」なんていわれるぐらい。
そんなにめずらしいですか先生。あたしってそんなに不真面目?と聞いてもみんな黙って頷くだけだった。


「ねぇ・・・・あたしって今までそんなサボってる?」


まだ口の中にご飯が少し残った状態でもぐもぐしながらに聞いた。彼女はうーんとうなりながらも箸を止めることなく話す。




「なんていうか・・丸一日サボるわけではないんだけど一日一回はサボってて、トータル的に見るとずいぶんサボってるって感じじゃない?」

「・・・なるほど・・・。じゃあ今日はサボるわ。」

「じゃあの意味がわからん。」


に呆れられながらもあたしはお昼休みの終わる五分前ぐらいに屋上に向かった。


今まで授業をサボらないで過ごしていた理由。
それは彼に会うのが怖かったからでもあった。
流川君。
別に彼自身が嫌いなわけじゃないけど、彼を取り巻く人たちに目をつけられるのは面倒だから。
まぁあたしなん眼中にないと思うけどね!
そうわかっていても用心しておきたかった。
でもまさかもうあんな偶然はおこらないだろう。
彼だって毎日授業をサボってるわけではないだろうし、あたしがサボる日付、時間がかぶるなんてありえないって。うん。だから今日は大丈夫!

ふふふーんなんて鼻歌を歌いながらいつものお気に入りの場所に行く。

いつもなら誰もいないそこ。

でも今日は黒くておおきい背中がゴロンと横たわっていて

あたしは目を見開いた。



「・・・・・・げ・・・・。」

「ん」




あたしの一声に気づいたらしく背中がくるっと向き直って鋭い目があたしを射抜く。









「・・・・おせえ。」

「ぇえ!?」


彼の意味のわからない第一声に体がビクッと反応する。




「・・・なんでこなかった・・・・」


さらさらと風になびく前髪からちらっと覗く瞳がまっずぐあたしを見た。




「・・・・は・・・・?」



むっくりと起き上がって胡坐をかいた流川君。
あたしは彼の言っていることが全く理解できないでいた。
頭が混乱する。
は?遅い?なんでこなかった?何が?



「ご、ごめんなさい・・・・なんの、話?」


恐る恐る彼の正面に座って聞いてみると大きなため息をつかれる。


「ここ一週間、なんでこなかった。」

「ま、真面目に授業にでていたからです・・・・・。」

「勝手なことすんじゃねぇ。」

「す、すいません・・・・。」


なぜ真面目に授業に出ておこられる・・・。
でも今はそれよりも知りたいことがあって。


「あの、えっと・・・・お、遅いって事は・・・あたしを、待ってたって・・・事?」


なんだか自惚れてるみたいにとられるのが怖かったけど彼は数秒おいてからコクリと頷いた。

「じゃぁ・・・・一週間ってことは毎日ここに来てたってコト?」


すると彼はまたコクリと頷く。




・・・・いや、余計に意味がわからない!!!
ますますわけのわからなくなるあたしを表情ひとつ変えず流川君はじっと見ている。



「や、約束なんて・・・してたっけ?」

「別にしてねぇ。」

「そ、う・・・だよねぇ・・・・」



じゃぁ、なんで?
その疑問以外にあたしは言葉が思いつかない。

あたしは不機嫌そうな彼に質問するべきか、否か。「る、流川君・・・・」と小さな声で切り出す。

「えっと・・・そ、の・・・約束、してなかったから・・・うん。わ、わかんなかったです!流川君がここに来てたの・・・ご、ごめんなさい・・・。」

「じゃあ今約束しろ。」

「いや、え?は?な、なんで?なに?」


「しろ。」

流川君の理不尽な台詞と態度にあたしは腑に落ちないままハイと言わずにはいられなかった。
どんだけあたしはチキンハートなんですか・・・・
自分で悲しくなってきた・・・。



はぁと小さいため息をついてからあたしは右手で顔を覆う。








「おい。」

「はい、なんでしょ・・・・」


もうなんでもこい!
変に強気になったあたしは彼に返事をした。





「これからは、ちゃんとここに来い。」

「・・・・・はい。」

「別に毎日とはいわねぇ。ちゃんと来い。」

「いい、けど・・・・・・でも・・・流川君がいつここにいるのかわかんなかったらしょうがないじゃん。」

「携帯。」



そういって彼は自分の携帯電話をスッとあたしに差し出してきた。
黒の薄いシンプルなデザイン。
携帯なんてもってたんだ・・・・と関心しつつもそれを受け取ろうと手をだす。
・・・・いや、ちょっと待て!!
携帯の真上でぴたりとあたしは手を止めた。


「あ、あのぉ・・・・」

「なんだ?」

「それってあたしじゃなきゃだめなの?」

「は?」

「い、いや、なんていうか・・・流川君と一緒に居たい人なんて死ぬほどいると思うんだよね。だ、だから・・・あたしじゃなくて・・・そ、その人たちに、た、頼めばいいんじゃないでしょう・・・か・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「いや、なんていうか是非あたしにそばにいさせてくださいませ。はい。」

「・・・・。」

無言の威圧感に負けた。

意味もわからないし怖いしでしぶしぶ携帯を受け取り自分の携帯の赤外線を色々いじっているとき、チラリと視野に入った流川君の表情にあたしは一瞬手を止めた。





彼が少しだけ笑ったように見えたから。




まぁそれは別に人なんだからおかしな話じゃないんだけど・・・・。

そんな顔もするんだね。
純粋にそう思った。


第一印象からずいぶん変わってきた彼。

あたしは・・・・もう少し、もう少しだけ彼とかかわってもいいんじゃないかと不思議と思えた。




自分の名前を入力して、携帯を返すと眉間にシワを寄せて「・・・」と小さく言った。


「そーそー。あたしの名前でーす。」

「・・・しらねぇ。」








「これから覚えてくれればいいよ。流川君。」

「・・・・・うっす。」







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れ、連載2話目。
ホントこれ誰か見てくれてる人いるのかな。
超自己満足で申し訳ないです。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!