ああ、あのボクサーとかの脳みそが揺れるってこういうことか。


今すっごいわかった。


目の前がぐにゃぐにゃとゆがんで体がふらふらする。

なんとか踏ん張ろうと足にぎゅっと力を入れてみるものの、
それも空しくあたしは膝から崩れ落ちた。
バンと手を床について、はたから見たら土下座してるみたいな感じ。



「うあぁ・・・あ・・あ・・・ああ・・・・」


自分から信じられないような唸り声がでた。

やべ。
ゲロはきそ。

意識が朦朧とする。


「大丈夫ですか!!!すすすすすみません!!!!」

そんな時周りのざわめきを切り裂くみたいな声がした。
そばから聞こえたそれにあたしはなんとか重たい頭を持ち上げてみる。
そこには赤い頭の大男がうっすら涙を浮かべた情けない顔であたしを見下していた。



「桜木花道・・・・」


「すすすみません!大丈夫ですか!!」


だんだんと戻ってくる普段の感覚にやっと彼のボールがあたしに偶然当たってしまったということがわかった。
青ざめた顔であたしを見る彼をなんとか落ち着かせなきゃと笑ってみせる。


「大丈夫・・・だから・・・とりあえず手貸してくれる?」

「は、はいぃ!!」



正直全然大丈夫じゃないんだけど・・・・

苦笑しながらも彼の差し出してくれた手を掴んだ。


「おっと・・・・」

「ぬん!!!」



やっぱりまだ頭がボーっとして上手く立ち上がれず彼に寄りかかってしまう。
筋肉のついた彼の胸は汗ばんでいて熱かった。



「あ、お、あぁ・・・・・」

「だ、ダイジョブですか・・・・」

「あは・・・泣かないで・・・・!ご、ごめんね・・・・保健室・・・行くから、肩貸して・・・」


普段は鋭い桜木君の目が今はうるうるとチワワみたいにかわいい。泣き出しそうな表情であたしを見ていた。(というか軽く泣いてる)
そんな彼にちょっと笑いながらお願いすると、さっきまでは自分より高い位置にあったあの赤い頭がスッ下に下りた。
彼にほぼ全体重をかけていたあたしは支えがなくなってそのまま前のめりになる。
でもそこには桜木君の背中があって、あたしは自然と彼の大きな背中にもたれておんぶされた。



「ちょ、桜木君!?」

「こっちの方が早く保健室に向かえますから!!」

「え、ちょ・・・・







だぁあああーーーー!!!!!!!!!」




あたしが大丈夫だから!といおうとしたときにはもう彼はあたしを担いでダッシュで保健室に向かってくれていた。
とてつもないスピードに体がのけぞる。
ちょ、これ何かのアトラクションですか?
早すぎてさっきとは違う意味でゲロはきそうなんですけど。
あ、ちょ・・・女の子なんだからこういう言葉は控えなきゃといわれるのなら、体中の毛穴という毛穴が光りだして口から夢と希望があふれ出そうだよこれ。





別の意味で意識が朦朧としてきたところで保健室に着いた。(よく頑張ったあたし。自分で自分をほめてあげたい!)


あたしなんかよりも真っ青になっている桜木君をみて(あたしは後ろで白目むいてた)
「あ、あらあら。どうしたの?」なんて保健室の先生は言いながらアイスノンをくれて、ひどく痛むようなら病院にいきなさいね、とシンプルな処置をしてくれる。
アイスノンと桜木君の必死の呼びかけのおかげでずいぶん落ち着いてきたあたしはあらためて本当にちゃんと彼に「大丈夫だよ」と伝えた。



「本当に・・・す、すみません・・・・。」

「もぉー!!大丈夫だからっていってるでしょ!!気にしないでいいよ!!」




あたし達はゆっくりと体育館への道のりを二人で歩く。
はじめは緊張していたものの、チラリと覗いた彼の横顔は普通の高校一年生だった。
ホッと胸をなでおろしながらも、まだ申し訳なさそうにあたしをちらちらと見ていてちょっと笑える。



「いやー意外だったなぁ。」

「な、何がですか?」

「桜木君ってもっと怖くて・・・こう・・・ヤバイ人かと思ってた。」

「そ、そんなことないですよ!!スポーツマンですから!」

「うん!そうだね!すっごいかわいくて面白い人だったわー!」

「か・・・・かわいいだなんて!そんな事はないです!!」

「だってあんな青ざめちゃって・・・ヒヒヒ・・・」

「なっ!!しょ、しょうがないじゃないですかぁ!!!」



「あんときはびっくりして・・・」とそっぽを向きながら口を尖らせる彼に笑えて、よりいっそう親近感がわいた。



「ねぇねぇ。」

「はい!」

「花道ってさ、いい名前だね。」

「そうですか?」

「うん。だって花道だよ?花の道だよ?将来花の道を堂々と歩く男だよ!?」

「いやーそんな天才だなんて。」

「別になにもいってないけど。・・・・ねぇねぇ、そんな素敵な名前をもつ君を名前よんでもいいですかね?」

「はい!もう是非とも呼んでください!!」

「おお!!ありがとう!花道君!」

「いやいや!礼には及びませんよぉ!!はっはっはっはっはっは!!」


彼は頭をかきながら高らかに笑う。

流川君とは違う面白さと魅力があるなぁ。
赤い髪は彼をきりっとたくましく見せる。
鋭い目は流川君とは違うまっすぐな感じ。
素直な言葉に元気な声。
彼とはすぐに仲良くなれるとフィーリングで感じた。



「いやーもう練習はじまってるかなぁ・・・花道君さきに戻っちゃってもいいよ?」

「いえ!一緒に行きます!むしろ行かせてください!!自分にはその義務がありますから!」

「アハハありがとね!赤木君怒らない?」

「ゴリは大丈夫ですよ。バナナあげときゃなんとでもなりますから!!」

「ゴリ!!?」

「・・・いや、そ、その・・・キャプテンはとても・・・心が広い・・・お人ですから!」


はっとした後であたしから視線をそらしながらもごもごと言い直す彼にあたしは耐え切れずにブッと噴出してしまう。



「ぶっはははははははははははーー!!ゴリて!!」



「う、だ、だって・・・」

「いや似てるよね!うん!!似てる似てる!!」

「で、ですよねぇ!!」

「あたしもはじめて同じクラスになった時にはゴリラ・・・って普通に思ったもん!!ぶっちゃけ!!」

「ハハハハ!!」

「アハハハー・・・いやなんていうかアレだよね!ゴリラ似の人っていうよりは人似のゴリラみたいな?」

「アハハハ!!それそれーー!それですよぉ!!!」




あたし達は笑いあった。
さっきまでの事なんて忘れて昔からの友達みたいに。
でかい二人の声はどこまで届いていたのだろうか。
目の先に見えていた体育館の入り口から赤木君がぴょこっと顔を出して「なぁーに笑ってんだコラァ!さっさと練習開始するぞ!!」と怒鳴った。



「ひ、ひひ・・・噂をすればだ!」

「ですね・・・」


二人とも震える声を潜めておなかを抱えながら目を合わせた。



「ほらほら!練習戻らないとだ!」

「はい!」

「流川君に負けちゃうよ?」

「むっ!流川!」




最近仲良くなった(一方的に)彼の名前をついうっかり出してしまったあたしをじっとみて、彼は足をぴたりと止める。

あれ・・・もしかして触れちゃいけなかったかな?
思えばチームメイトだからってプライベートで仲いいと思えないし、何より同じ学年でライバルである彼の名前を出すのはタブーだったのかもしれない。
しかも・・・桜木君のこの性格と流川君のあの性格が・・・ナイスマッチ☆といった感じで仲良くやっているとは思えないよね・・・


まずい。
怒らせちゃったかも・・・



はらはらしているあたしの横で花道君はぎゅっと拳を握った。








「・・・やっぱりさんもあの狐の応援なんですか・・・!」



「なんであいつばっかりぃ・・・!」ぬぐ・・・と口をへの字にして面白くなさそうに彼はいった。



「き、狐・・・・・!!!!ひっひっひっひ!!アハハハハーーーーーーーーー!!!!」


狐!狐て!!ゴリラのあとのダブルパンチだコレ!!!
あたしはさっき以上におなかを抱えて笑った。




「き、きつ・・・・・・確かに似てる・・・!で、も確かにギャラリーはほとんど流川君ファンだよね。うん。」

「・・・ぐ・・・」

「あ、でもあたしは違うよぉ〜。」

「ほ、ホントですか!!」

「うん。普段は見に来てないし今日は友達の付き添いってところ。別に誰の応援ってつもりで来たわけじゃないんだ。」

「ア、アハハハハ!そーなんですか!!」



ゆっくりと歩き出して、体育館の入り口のところ。

ピンとした花道君の背中をあたしはぽんと叩いた。






「じゃ!練習頑張れ!花の道を歩く男!天才桜木のファンになるぐらいかっこいいところ見せてよ!!花道君!」

「・・・・さん・・・!」

「狐をギャフンと言わせたれぇーー!!!」

「はい!!!」




彼は笑顔であたしに手を振りながら走っていった。
あたしも手を振って見送る。


あーあ。なんだかんだで赤木君に教科書を返しそびれてしまった。
ボールがあたって倒れこんでもなおあたしは彼の教科書を握ったままだった。
頭に当てているアイスノンの持つ手を変えて教科書を持ち直す。


「しょうがない・・・・」



終わるまで見ていくとしよう。
あたしはしぶしぶギャラリーに戻った。










「ちょ、!!大丈夫?」

「うーん。なんとかー」

心配そうに近づいてきたに笑顔で返事をしてみせると彼女も少し安心したように笑って見せてくれた。
あたしはゆっくりとギャラリーのベンチに腰掛ける。
相変わらずの流川君への黄色い声援はあたしの頭を元の10倍ぐらい痛ませた。
でもちょっとさっきと違うのは



「おあ!!花道君!!凄い凄い!!!でかい!!赤い!!!」

さん!!見ててくれましたか!天才のプレー!!!」

「見てましたよー!!!」

「あっはっはっはっはっは!!!」


花道君を見る楽しみが出来たことだった。
彼に声援を飛ばすのはとても気持ちい。
あたしの流川君親衛隊に埋もれた声にもちゃんと気づいて反応してくれて、
そのたび手を振ってくれて
そのたび三井君や赤木君に「よそみしてんな!」と渇を入れられて、
あたしとは笑いが止まらなかった。


楽しい時間はあっという間にすぎてしまうものでいつの間にか部員の人たちは体育館のモップかけや片付けをはじめている。
あたしはに別れを告げてギャラリーの階段を駆け下りた。






「ゴ・・・・・あーかーぎーくーーーん!!!」


あぶないあぶない。あたしまでゴリなんて叫ぶところだった。
あたしはあの時の休憩時と同じように彼に手を振りながら走りよる。
でも今度は大丈夫。
回りもちゃんと確認したし第一バスケットボールはちゃんと片付けられているんだから。




「赤木君!教科書!本当にありがとでした!!」

「・・・ああ、別に明日の朝でも良かったんだが・・・頭は大丈夫か?」

「気にすんな。こいつ元から頭おかしいからよ。」

「ちょ!三井君!何を間を割って入ってきたと思ったら!!あたしの悪口ですか。」

「ホントの事だろ?」

「否めないよ!!!」



赤木君に教科書を渡すと後ろからひょっこり現れた元不良はにししと無邪気に笑った。
赤木君も肩にかけたタオルで汗をぬぐいながらちょっと呆れた顔をしてて。


純粋に楽しい感じ。




でもなぜかこの楽しい空間は






一瞬にして無になった。








「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」









「・・・・・・・・・・・・る・・・か・・・わく・・・・・ん・・・・?」











不機嫌そうな顔。
鋭い目には


怒気が宿っていて




そんな彼は無言であたしの左腕を掴んでずるずると体育館の入り口までひっぱっていく。





水滴だらけのアイスノン。

その一滴があたしの首にポタリとたれてつーっと首を伝うのがわかった。



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おぉぉおおおーーーーーい!!!なんだこれ!!流川!!全然でてこねーよ!!!
誰の連載ですか?っていうか連載ってなんですか?
私の頭は単細胞ですか。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!