違う違う。

これは別に違う。

そーゆーんじゃない。

好きとか好きとか恋心とか好きとかそーゆーんじゃなくて










「じゃー何?」




が眉間にしわを寄せてストローをかじった。





「わかりません。」

「じゃー好きなんじゃん。恋してんじゃん。」

「違います。」

「何で。」

「わかりません。」

「ベトナムの場所は?」

「わかりません。」

「自分の名前は?」

「わかります。」

「いや、そこはでいいと思う。」




長い溜息をついてからは少し遠くを見る。



「っていうかさ、って一応流川君の彼女なんでしょ?」

「・・・・おそらく。」

「嫌いで付き合うほどってお人よしなの?」

「べ、別に嫌いなわけじゃないよ!!」

「じゃあ何?」

「好きだけど・・・・なんつーか・・・」

「前に流川に惹かれてる!って豪語してたじゃん!!」

「いや!そうだけど!それは人としてっていうか・・・・」



もごもごと歯切れの悪い返答しかできない自分がもどかしい。
あたしはまだ流川君には惚れていない!
とはっきり言い切れないでいた。
顔がかっこいいからとか、バスケができるからとか、
そういう理由が見当たらない。
どこが好きなのかよくわからない。
つまりそれって好きって言えないんじゃないか・・・・・?
とか思う。
あとはまだどこか変なプライドがある。
そうなる、といわれるとそうしたくなくなるみたいな。

まさかあたしがこんなことで悩むなんて・・・・・・・・・・



「・・・・。」

「何!?」

「顔。」

「えぇ?」

「面白すぎるから、落ち着いて。」

「・・・・オッケー。やんわり傷ついたけど。」




どうやら知らず知らずのうちにとんでもない表情をしていたらしい。
が俯き右手で顔を覆った。
そんなに面白いですか。
むしろ私はそんなに面白い顔できたんですか。






「とりあえずさ、」うっすらうかんだ涙をぬぐいながらが口を開く。



「流川君の気持ちが変わらないうちに素直になりなね。」

「えぇ?」

「後悔して泣きをみないようにってこと。」





後悔?



「ちょ、それどういう・・・・・」







全部言い終わる前にあたしの携帯が鳴る。
お昼休みが終わる5分前。
こんな時間にあたしの携帯に連絡を入れてくるのなんてあの男しかいない。





「ほらほら、彼氏が呼んでるよー」


飲み終わったジュースのパックをつぶしながらひらひら手を振る友人にちっと舌打ちをして
あたしは携帯の通話ボタンを押しながら教室を出た。



『・・・・・・・・・・』




無言電話ですか。



「人はそれを悪質な嫌がらせと呼ぶ。」

『・・・・・屋上、こい』

「人はそれを命令と呼ぶ。」

『いいからこい。来なかったらどうなるかわかってんだろーな』

「人はそれを脅迫と呼ぶ。」

『待ってる』



その一言が聞こえたところで電話がぷっつりと切れた。
あたしは足早に屋上へと向かう。
まぁはじめから向かってたんだけど。
どうせ呼び出される場所なんて屋上か、体育館か、自転車置き場だけなんだから。



の言葉がどうも気にかかってしょうがない。
流川君の気持が変わらないうちに


別に、変ったってなんてことはない。
ただ今まで通りの日常にもどるだけ。


人の気持ちなんてそんなもんなんだよ。
流川君だって今、一時の感情に身をまかせようとしているだけかもしれない。
ゲテモノ食いっていうか・・・・いやこれ自分で言ってて凄いダメージあるけど・・・・。


あたしのことを好きと錯覚しているだけなのかもしれない。


あたしが好きになってしまったら


その錯覚が解けた時



あたしはひどく傷つくだろう。
そんなめんどくさいことごめんだよ。

だいたい流川君みたいな人があたしなんかを好きになるわけがない。


きっと今だけ


今だけなんだ。




「・・・・・今だけ、か・・・・・・・・・」






チクリと胸に針が刺さる。


細くて、見えないくらい小さい針。

でもひどく痛くて気になった。








「なんじゃぁあーーーーーっい!!!」



ガチャリと勢いよく屋上のドアを開けて決めポーズをとってみる。


・・・・・よかった、誰もいなくて。


誰か流川君以外の人が見てたらどうしようかと思っちゃった!
っていうか流川君は!?


きょろきょろと彼の姿を探すと、

初めて出会った給水タンクの裏ですやすやと眠っていた。





「・・・・・・・・・・。」



呼び出しといて寝てんのか。
流川君なら納得できる自分がいた。

それにしても幼い寝顔。

整いすぎた顔はそれでもやっぱり高校一年生でかわいい。
普段仏頂面な分ギャップがある。



まつげ長げぇーーーー


うわー凄い静かだ・・・・


ふと気付いた。

そういえばあたしって流川君の顔ちゃんと見てない。
いつもドキドキしっぱなしでちゃんと見たことってあんまりない。



「・・・これを機に目の保養にさせていただきますか・・・・・・・」




そーっと覆いかぶさるようにして近づくと規則正しい寝息が聞こえてくる。

誰が見ているかわからないのに、
いつ起きるかもわからないのに
あたしはいつからこんなに積極的になったんだ?

流川君だから?


そっと髪をなでる。
それでもすやすやと眠る流川君。

やわらかくてサラサラで気持ちいい。
ドキドキするけど、すごく心地がいい。



ああ


こんな時が、永遠に続けばいいのに

















「・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!」






今あたし、
何考えてた?


自分で自分の思考回路に寒気がする。
うううううーーーーーーーーーーーーーーーーーキショ!!!
キャラじゃないキャラじゃない!
あたしは焼きそばパン一つに命をかけるトレジャーハンターみたいなそんな少年心を持ちあわせた
ただの一般女子高生。
けしてキラキラふわふわな乙女女子高生じゃない。
「もうあたし・・・どうしたらいいかわかんないよ!ルーシー!」みたいな感じに
ぬいぐるみに自分の悩みを打ち明けたりなんかしない。




ぶんぶんとさっきのキラキラメロメ思考を取り払おうと頭を振っていた時。







急に両手首が固定されて
体がビクンと跳ねる。






「ひっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



びっくりした!!心臓鼻から飛び出した・・・
そんな思いをしたあたしなんかよりもびっくりした表情で流川君があたしを見ていて



はっと気がつく。






でもその時にはもう遅くて






素早く組み敷かれて、
視界が反転した。











「うへええ!!?ちょ、流川君違う!違う!おちっ!!!!!!」



ぬるりと首を這うもの。
それはたぶん流川君の舌で。
さっきまで撫でていた髪があたしの頬をさらりと撫でる。




「ちょ、話せばわかる!!違うんだってば!!!!!!!!!」



じたばたと両手両足をばたつかせると解放はしてくれないものの、
のっそりと流川君の頭だけが持ち上がってあたしを見る。


絡み合う視線。


流川君の顔はいつもよりしかめっ面。






「・・・・何が」

「やめて!つか離せ!!」

「なんで。」

「は?なんで!?むしろなんで!?」

「・・・襲われた。」

「ちっげーーーーっつの!襲ってない!別に襲ってないぃーーーー!!!ちょっと寝顔みたいと思っただけ!そんだけ!!」



あたしの必至の訴えにしばらく無言だった流川君もはぁーーーーっと長い溜息をついてからどすんとあたしの胸元に倒れこんだ。
大きな体がものすごく重くてあたしの肺を圧迫する。




「・・・・・・・・・・期待させんなどあほう・・・・・・・・・・・」







つぶやくように流川君が言った。
なんとなく寂しそうな、がっかりしたような声。


子供みたいだ。













「す、すいまっせーん・・・・・・・・・・・」








どうしよう





そんなにいやじゃなかった自分がいて
(いや、嫌なんだけど)


すごくドキドキしてる自分がいて
(たぶんあんなことを男の人にされるのが初めてだからだと思うけど)








解放された手を





戸惑いながら、そっと流川君の頭を抱え込むようにしてまわす。






どうしよう
あたしは今すごくこの男に悩まされているみたいだ。














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エロス。
いや、何が。
ホントあんた何がやりたいんだ。


すいまっせん。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!